【アトラエ 小笹監査等委員インタビュー】
「妊娠出産期のIPOも経験しました」監査役でも実現できた家事と育児
株式会社アトラエ
取締役(常勤監査等委員)
小笹 留美子
女性にとって人生の大きなターニングポイントになるであろう、結婚や出産。
女性が働きやすい環境づくりが進みつつある世の中であっても、生活環境の変化はキャリアを見直すきっかけにもなるでしょう。当初は想定していなくても「もっとこどもと一緒に過ごす時間がほしい」「違った働き方をしてみたい」という気持ちが芽生える話も、よく耳にします。
そんな中、大手企業勤務を経て、ベンチャー企業の常勤監査役に就任という異例のキャリアを歩まれているのは、株式会社アトラエ取締役(常勤監査等委員)の小笹留美子さん。二人のこどもがいらっしゃる小笹さんですが、ベンチャー企業そして監査役としての勤務も、すべてが初めてのことだったそう。
「監査役も家事、育児も自然にやれています。」と語る小笹さんは、どのようにして監査役というキャリアを歩まれたのでしょうか。
最終更新日 2020.07.01
※役職はインタビュー実施日現在のものです。
※新型コロナウイルス対策のため、Web会議ツールを利用して2020年4月17日にインタビューを実施しました。
NTT東日本からベンチャー企業の監査役へ
新卒で日本電信電話株式会社(現在のNTT東日本)に入社されたとのことですが、どのような業務をなさってたんですか?
新卒で現在のNTTに入社して、幅広く業務を担当していました。
地方自治体を相手にした法人営業や、本社では会員向けのプロモーションやアライアンス業務、出向した先では広告代理店の営業など、様々な業務を経験しました。
ベンチャー企業の常勤監査役というキャリアに至ったきっかけを教えてください。
前職は民間ではあるものの法律で一定の制約もある会社なので、当時から会社の仕組みがしっかりしていたんです。育児に関する福利厚生が手厚い企業としても有名で、「育児が理由で退職する時は、再雇用を認める」という制度もあったほどです。
上の子が生まれたら保育園に預けて、これまで通り仕事をしていました。しかし小学校に上がる頃、家庭の事情があり退職したのをきっかけに、いわゆる「小1の壁」についても漠然と考えるようになりました。
その中で「もっとこどもと過ごす時間を作りたい」と思うようになり、キャリアを考え始めたんです。
キャリアを考え始めた時、ちょうど私の友人がIPO準備中のベンチャー企業で監査役をやっていて、IPOのコンサルをされていたプロジェクト・オーシャンの早川さんをご紹介いただきました。そこで初めて「ベンチャー企業」や「監査役」について詳しく話を聞きました。
自分は社員として監査される立場の人間だったので、監査という仕事はなんとなく知ってはいるものの、ずっと遠い存在に感じていました。大企業でいう監査役は、ベテランのキャリア組が行き着く最後の花道のようなイメージがあって……でも早川さんから話を聞く中で、自分が今まで大企業で培ってきた会社の作法や経験が役に立つのなら、新しい仕事に挑戦したいなと興味が湧いたんです。
ベンチャー企業の監査役になるにあたって、最初の印象はどうでしたか?
とにかく人数が少ない。当時全社員あわせて20数名だったと思います。全てがこれからというかまっさらな印象でした。
これまでとは関わってきた企業の規模感も、扱う予算も、使うツールも全てが違いました。しかしながら、そこまで不安を感じてはいませんでした。代表である新居と話した時から会社の雰囲気は伝わっていましたが、会社のメンバーが同じ目標に向かってスピード感を持ってワクワクしながら働いていたので「何か素敵だな」と。
監査という立場ではありますが、この会社にジョインして、成長・貢献しながら一緒に会社の成長を見ていくことができたら面白そうだなと、楽しみの方が大きかったんです。
IPOの直前に想定外の出来事
何もかも初めての環境での仕事はどうでしたか?
監査役という立場で業務監査と会計監査をすることになったのですが、私は弁護士のような法律の専門家ではありませんし、会計士や税理士の資格どころか、財務諸表も遠い存在でした。
HRテックという事業分野も初めてですし、ベンチャー界隈の事情など知らないことも多く、勉強することはたくさんありましたが、日本監査会協会に登録をして様々な監査役の方と情報交換をしたり、アドバイザーの早川さんにもサポートいただきながら、一つ一つクリアにしていきました。
就任されてから今まで、印象的なエピソードはありますか?
就任して半年くらい経った頃でした……なんと妊娠したんです。タイミングが読めず想定外のことでした。
もちろんIPOという大きな目標に向かって進んでいく組織に迷惑はかけられません。代表に「上場審査に支障があるならば辞めます」と打ち明けました。
すると代表は「女性の活躍が推進されるこの時代に、監査役が妊娠出産をするからIPOできないなんてことはないはずだ」と。
結果私は出産前後のプランを提示した上で続投しました。
出産1ヶ月前~出産後2,3か月程は家や病院での対応になりましたが、オンラインで取締役会に出席したり、必要なデータなどは会社のメンバーと連携してチェックできるようにするなど工夫をしました。
元々、生産性高くやるべきことができていれば仕事をする場所や時間は関係ないという企業風土があり、こういったことについての理解もあったのだと思いますが、何より代表をはじめとした会社のメンバーの協力があってこそ成しえた事だと思っています。
監査役として考えてること
監査役の業務で普段意識していることはありますか?
ベンチャー企業は圧倒的な熱量やスピード感があるのですが、その分抜けている部分や犠牲にしていることもたくさんあります。そこを第三者的な視点から修正・改善についてアドバイスしていくことが私の仕事だと思っています。
監査役の立場はコミュニケーションのバランスが難しいと言われますが、あまり意識したことがありません。
例えば株主・社会からの要請と経営とのバランスですが、会社がしっかりすることが株主や社会のためにも繋がっていくのではないでしょうか。当社の企業理念は「大切な人に誇れる会社であり続ける」なのですが、会社が誇りあるものであるためのサポートをしていくのが自分の役割だと思っています。
工夫で言いますと、伝えるタイミングと伝え方は企業の成長ステージにより異なると思うので、常に考えています。今すぐ指摘・改善すべき内容もあれば、あるべき姿を理解してもらう必要はあるけれどもその上で今は保留しておいてもいいこともあるので、適切なタイミングで必要な指摘やアドバイスをすることを心がけています。
また、指摘するのみではベンチャー企業の監査役としての役目は果たせてないと感じるので、指摘したことについてなるべく解決の選択肢が広がるところまでアプローチするようにしています。監査もいろんなやり方があると思うのですが、今後も法改正のキャッチアップや世の中の動向などの情報収集をしつつ、会計に関しても理解が深められるよう学んで、役割を全うしていきたいです。
子育て中のママでも監査役として働くことはできますか?
ある程度自由に仕事のスケジューリングをして、家事も子育ても大きなストレスなく過ごせる日が来るとは想像もつきませんでした。監査役という仕事は家事も子育ても自然な流れですることが可能だと思います。
まさか自分がこのようなキャリアを歩むとは思っていませんでしたが、監査役の経験がなかった私でも大丈夫なので、迷っていたら飛びこんでみるのもありなのではないでしょうか。