【Recovery International 伊藤常勤監査役インタビュー】
多様な経験と丁寧な対話が生む、
監査役の「静かなやりがい」とは
Recovery International株式会社
常勤監査役 伊藤 敬子
監査法人、海外コンサルティングファーム、事業会社での内部監査・経理を経て、Recovery International株式会社の常勤監査役となった伊藤さん。
「つまみ食い的」と悩んだキャリアをどのように活かし、自らの強みへと変えていったのか。経営陣や現場への深いリスペクト、試行錯誤の中で感じるやりがいから子育てとの両立まで、しなやかにキャリアを育む伊藤さんのリアルな言葉をお届けします。
最終更新日 2026.8.27
※役職はインタビュー実施日現在のものです。
監査法人から海外へ。20代で培った会計の基礎とコミュニケーション力
キャリアのスタートは監査法人だそうですね。
はい。5年ほど在籍し、内部統制監査や会計監査を担当する中で、現場主査などの役割を経験しました。
監査法人では年間を通して異なる企業を複数担当し、その都度チームのメンバーも変わります。
働く現場や関わる方がどんどん変わっていく環境のおかげで、様々な方とコミュニケーションを取り、良い関係を築く経験ができました。
この時の学びは、現在の監査役業務にも非常に役立っていると感じています。
その後、監査法人を退職されて、海外のコンサルティングファームへ転職されていますね。
もともと海外志向があり、20代のうちに海外で働く経験を得たいと思っていました。
ただ、当時の監査法人から海外赴任を目指すとなると、もう少し年次が上がらないと難しく、チャンスも限られていたため、「それなら外に出て探そう」と、転職を決意しました。
働く国はどのようにして決めたのですか。
就労ビザのハードルなどを調べる中で、英語圏かつアジアのフィナンシャルセンターとして経済に勢いがあるシンガポールや香港が候補に挙がりました。
アジア圏にはなんとなく親しみも感じており、ご縁があったシンガポール本社の企業に採用いただき、香港支社での勤務を選びました。
香港でのご経験はいかがでしたか。
環境に慣れるまでは大変なこともありましたが、非常に楽しく、素晴らしい経験ができました。
当時の香港事務所は日本人がまだ2、3人しかおらず、現地の香港や中国の方々と一緒に働いていました。主な業務は、香港に進出する日系企業のサポートです。
会社設立から記帳代行、監査、税務・財務のアドバイザリー、M&A時の財務デューデリジェンス、内部監査、IFRSへのコンバージョンなど、幅広いプロジェクトに携わりました。
監査法人で学んだ基礎をベースに、ビジネスを成立させるための会計領域を整える経験を重ね、仕事の幅が大きく広がった時期でした。
事業会社での幅広い経験がもたらした「現場感」
その後、日本に帰国されたのは何かきっかけがあったのでしょうか。
結婚したことがきっかけです。当初、夫は東京、私は香港と別居婚だったのですが、将来子どもが欲しいと考えていたこともあり、日本に戻ることにしました。
株式会社ジェイアイエヌ(現株式会社ジンズホールディングス)に転職し、最初の3年間は内部監査を、後半の3年間は経理を担当しました。
第三者的な立場から、事業会社の中の人になられたのですね。
はい。事業会社に身を置いたことで、どんな部署の人がどのような仕事をして組織が成り立ち、ビジネスが動いているのかが肌感覚でわかるようになりました。
内部監査では、人事部やマーケティング部など様々な部署をローテーションで監査する「部門監査」や、実際に店舗に足を運んでルール遵守や不正の有無を確認する「店舗監査」も経験しました。様々な部署の事業のリスクポイントを概ね把握できたことは大きいですし、後半の経理の実務経験を経たことで、現在、経理担当者と対話する際にも、具体的なイメージを持ちながらコミュニケーションを取ることができます。
現在の業務でも拠点を往査するのですが、店舗監査の経験が活きていると感じています。
キャリアに悩むタイミングで挑んだ、初めての常勤監査役
2020年に初めて現在のRecovery International株式会社の監査役に就任されています。どのような経緯だったのでしょうか。
監査法人時代の同僚であり、現在の代表である柴田から声をかけてもらったのがきっかけです。
実は当時、今後のキャリアについてとても迷っていた時期だったんです。
ジンズホールディングスで6年間働き、「このまま経理を続けるか、別の部署に行くか、それとも別の道か」と悩んでいました。自分のキャリアを振り返ってみると、監査法人、海外コンサル、内部監査、経理と、数年単位で色々なことをやっていて、「私って色々やっているようで、何の専門性もないな」と不安や焦りを感じていたんです。
そんな「つまみ食い」のようなキャリアで今後の方向性に悩んでいた時に、「監査役をやってみないか」と声をかけていただきました。
最初から監査役という選択肢を考えていたわけではなかったのですね。
そんな選択肢があることを知らなかったので、「監査役って何? どんな仕事?」というところからのスタートでしたね。
お話をいただいてから色々と調べたり、すでに監査役として活躍していた会計士の友人に相談したりしました。彼女から業務内容や働き方について詳しく話を聞くうちに、「もしかしたら、今まで私が経験してきたつまみ食い的キャリアが、監査役業務に活かせるかもしれない」と思うようになりました。
それと同時に未知の領域にワクワクし、就任を決意しました。
理念への共感とリスペクトが、監査役としての原動力
Recovery Internationalに就任した決め手は何だったのでしょうか。
最大の決め手は、当時の代表取締役であり創業者の大河原の強い思いに触れたことでした。
「訪問看護事業の認知度を上げて、社会課題を解決したい」という思いを熱量高く話す姿に、素直に素晴らしいなと尊敬の念を抱くとともに深く共感しました。「ぜひこの人たちと一緒に会社の成長を支えたい」と思ったんです。
会社の理念への共感は、やはり会社選びにおいて重要な要素なのですね。
とても重要だと思います。
監査役は会社を良くする方向に導くためのサポートをする立場です。
一緒に働く経営陣の想いや事業に対する共感、そして関わる方々への尊敬の念がないと、自分自身も会社のことを真剣に考えることは難しいのではないでしょうか。
一緒に悩み、会社を前進させていくためには欠かせない要素です。
伊藤さんのお話には「尊敬」「リスペクト」という言葉がたくさん出てきますね。
そうかもしれません。当社は、事業内容や経営陣だけでなく、現場で働いている従業員の皆さんの姿勢も素晴らしいんです。
各拠点を回る中で、皆さんが本当に会社の理念に沿ってご利用者様に寄り添い、真摯に訪問看護の仕事に向き合っているのがわかります。また、管理部のメンバーも、拠点の皆さんが少しでも働きやすくなるようにと常に考え、手厚くサポートしています。
当社は「もう一人のあたたかい家族」という企業理念を掲げ、「いきいきと働く」というVisionを大事にしているのですが、まさにそれを体現されていると感じます。
監査役ならではの「静かなやりがい」と対話の難しさ
実際に監査役になられて、想像と違ったことや難しさを感じることはありますか。
今でも難しいなと感じているのは、「まだ顕在化していないリスクへの対処」や、執行側と私とで「視点や立ち位置の違い」があるときの対話です。
会社側は目に見えるリスクには迅速ですが、顕在化していないリスクへの備えは進みにくい傾向があります。また、課題の認識はあっても、会社の状況によっては優先的に対応を進められないこともあります。監査役としての「こうあるべき」という正論を申し上げることはできても、執行側が同じ認識を持ち動いてくれなければ意味がありません。
指摘する際は個人の否定にならず「会社の課題」として話すこと、そして「目指すゴールは同じだ」と伝えることを意識しています。
衝突した際も時間を置いたりアプローチを変えたりしながら、少しでも良い方向に前進するよう、継続的な対話を大切にしています。
反対に、この仕事の面白さややりがいというと、どんなことがありますか。
監査役の仕事はコンサルティングや経理などと違って、短期的に成果が可視化されるものではないので、「これを達成した!」というわかりやすいゴールが見えにくく、適時にフィードバックをもらえるポジションではないため、難しいなと感じることが多いです。
ただ、中長期的な視点で見たときに、これまで抱えていた会社の課題が改善されたり、ガバナンス体制が強化されたりして、「会社が健全な成長に向けて前進している」と実感できたときに、心の中で「静かなやりがい」を感じます。
「静かなやりがい」、ぴったりな言葉ですね。
自律的にPDCAを回し、健全な経営を実現できている会社であれば、監査役が前面に出ることはないため、縁の下から会社の体制や執行状況等を確認し、成長と前進を支えることが本来の役割となります。
日常的なところで言うと、私は現場の方々との対話をとても大切にしているのですが、その中で「話を聞いてもらえて安心した」「心強かった」と言っていただけることが時々あります。
株主様や訪問看護のご利用者様、そして従業員の皆様といった利害関係者のどなたかが、「監査役がいてくれてよかったな」と思ってくださる瞬間が少しでもあれば、それは私の大きなやりがいになりますね。
柔軟な働き方と広がる未来のキャリア
現在、小学生のお子様がいらっしゃるとのことですが、監査役の仕事と子育てはどのように両立されていますか。
監査役は会社と雇用関係ではなく委任関係にありますので、働く時間のコントロールが比較的しやすいポジションだと感じています。
裁量が大きいため、子育てや介護などと両立しやすい業務だと思います。
私の場合は、子ども達が学校に行っている朝から午後3時~4時頃までの時間をメインに働き、夕方はなるべくミーティングを入れないように調整しています。
子どもが帰宅してからは習い事の送迎や夕食の準備など家族のための時間に充て、必要があれば夜にまたメールのチェックなどを行う、という働き方です。
全国に40ある拠点を往査する日も、夕方には帰宅できるようにスケジュールを組むなど、柔軟に対応できています。
今後のご自身のキャリアプランについてはどのようにお考えですか。
現在、当社の常勤監査役の他に、2社の非常勤監査役も兼任させていただいています。
他社の内部統制やガバナンス体制を横並びで比較できることは、自分の勉強にもなりますし、リスクに気づきやすくなるなど当社での業務にも非常に活きています。
まずは今お引き受けしているこの3社での役割に対して、ベストを尽くしたいと考えています。今後の具体的なキャリアプランは未定ではあるものの、これまでの経験を活かして貢献できる環境、そして同時に、私自身も新たな学びを得られる環境に身を置きたいと考えています。
最後に、今後監査役を目指す女性に向けて、メッセージやアドバイスをお願いいたします。
会計士という文脈で言うと、監査役は会計監査などの経験との親和性が非常に高く、フィットしやすい業務だと思います。
監査法人時代に培った、様々なクライアントやチームメンバーと良好な関係性を築きながら仕事を進める経験は、監査役として社内の色々な方と対話する際に必ず役立ちます。会社選びのポイントとしては、その会社の事業に共感できるか、そして経営陣や従業員の方々を尊敬できるかどうかが非常に重要です。
根底に「信頼・尊敬」という思いがあれば、意見が衝突しても関係性がこじれることはありません。
ぜひ、ご自身が心からリスペクトでき、その成長をサポートしたいと思える会社を見つけていただきたいですね。
取材・文: 大場 安希子
写真: 田中 有子