【ユーザベース 武田常勤監査等委員
インタビュー】
法律の先にある“会社のリアル”を知りたくて─好奇心と責任感が導く弁護士監査役のキャリア

株式会社ユーザベース
取締役 監査等委員(常勤) 武田 彩香

弁護士として大手法律事務所からキャリアをスタートし、海外留学、省庁への出向を経て事業会社へ転職。法務担当から執行役員を歴任した後に、常勤監査等委員に就任された武田さん。
「会社の中がどうなっているのかを見たい、知りたい」という好奇心が導いてきたキャリアや、強い責任感があるからこその悩み、弁護士が監査役/監査等委員を務める意義についてお話しくださいました。

最終更新日 2026.7.31
※役職はインタビュー実施日現在のものです。

プロ意識を叩き込まれたキャリアの原点

キャリアのスタートは大手法律事務所だそうですね。

はい。最初のキャリアに大手法律事務所を選んだのは、「大きな事務所の方が色々挑戦できて、その後の選択肢が広がるのではないか」という周囲のアドバイスや、風通しのよいカルチャーが自分に合いそうだという直感が理由でした。
仕事としては、企業をクライアントとする国内外の訴訟・紛争、労働法関連業務を担当していましたが、今振り返っても、本当に素晴らしい環境で育てていただいたなと思います。

その事務所の特色として、早くから若手に案件を任せるカルチャーがあったんです。
責任者として先輩の弁護士がつきながら、若手が窓口となって直接お客様と向き合い、関係性を築いていく。
新人の頃から、名のあるクライアント企業のベテラン法務部長の方と直接やりとりしながら、「自分がこの案件をハンドリングしなければ」とプロ意識を強く持つことができる。忙しくて大変ではありましたが、とても贅沢な環境でした。

その後、海外留学を経験され、ニューヨーク州の弁護士登録もされていますね。

はい、事務所に入って6年目くらいで、留学の機会をいただきました。
実は海外旅行すらほとんどしたことがなく、英語も苦戦しましたが、しっかり勉強してこようと決意し、約1年間のロースクール留学、現地司法試験の受験を終えたあと、オーストラリアのローファームで半年間ほど働きました。

帰国後すぐには法律事務所に戻らず、法務省の国際紛争を取り扱う部署に1年半ほど出向し、留学と合わせて3年半ほど事務所を空けてから復帰しました。ちょうど社会人として10年目になるタイミングでした。

10年目となると、多くの方が今後のキャリアについて考える時期ですね。

はい。正に、事務所に残ってこれまでやってきた分野の専門性をさらに高めていくのか、ほかの道もあるのかを考えました。
選択に大きく影響したのは、私が一度も「会社」に勤めたことがないという点です。
外部の弁護士としてクライアント企業に法的なアドバイスをしたり、訴訟案件を扱ったりしていましたが、「そもそも会社の中で何が起こっているのか」「どういう経緯で私たちに相談してくださっているのか」が見えていないと気づいたんですね。
自分が担当した訴訟が解決した後、その結果が会社の中でどう反映、実行されているのかも分からない。
それならば、一度会社の中に入って企業内弁護士として働いてみよう、法律家としての幅も広がるし、訴訟以外の案件にも関われる。そう考えて転職を決意しました。

法律事務所から事業会社への転職に、勇気が要ったのではないですか。

ものすごく勇気が要りました。
「会社」という組織で働くことが初めてでしたし、外部の弁護士と社内の法務に求められる役割が違うことも感覚的に分かっていたので、「求められる役割を果たせずに、大失敗するかもしれない」「転職を後悔するかもしれない」という恐怖もありました。
ただそれ以上に、「会社の中で何が起こっているのか、当事者として見てみたい」という好奇心が勝ったのだと思います。

カルチャーに惹かれて飛び込んだユーザベース。法務担当から執行役員としての挑戦

転職先として、ユーザベースを選ばれた理由は何だったのでしょうか。

転職エージェントから勧められたのですが、当時私はユーザベースのことを知らず、最初は社会勉強のつもりで面接に行ってみたんです。
そうしたら、面接がとにかく楽しくて。

オフィスの雰囲気も非常に明るかったですし、お会いする方々が皆さんイキイキとしていて本当に魅力的でした。
大企業の重厚な面接とは全く違う、最初からフラットでフランクなコミュニケーションができる環境に惹かれました。
「入社後に苦労することがあっても、この人たちとなら話し合いながら乗り越えられそうだ」と感じ、そのカルチャーが最大の決め手となって入社を決めました。

入社されてすぐに監査等委員になられたわけではないのですね。どのような業務を担当されたのですか。

2019年11月に入社して、最初は法務の一担当者としてスタートしました。
弊社が展開する経済情報プラットフォーム「Speeda(スピーダ)」などの事業に関わるビジネス法務の領域です。
事業サイドのメンバーと密に連携しながら、仕入れ先や顧客との契約スキームをどう構築するか、関係する法規制をどうクリアするかといった、ビジネスを前進させるためのリーガル支援を担っていました。
その後、2022年に執行役員に就任し、そこからは事業法務だけでなく、グループ全体のリスク管理体制の立ち上げ、運営も担当するようになりました。

変化を求めて。常勤監査等委員取締役への転身

執行役員として順調にキャリアを重ねられていた中で、現在の「常勤監査等委員取締役」に就任されたのはどういった経緯だったのでしょうか。

執行役員になって3年ほど経った頃、自分の中で少し「コンフォートゾーン」に入りつつあるなと感じるようになったんです。
事業側のメンバーとの信頼関係もでき、会社が変化するスピードは速いものの、事業の論点やリスクの大枠が見えるようになってきていました。
「このまま自分が同じポジションをやり続けるよりも、優秀な後輩に役割を渡して組織の代謝を促した方が、会社にとっても、個人の成長にとってもプラスになるのではないか」と考えたんです。
そこで、「そろそろ次のチャレンジのために、退職しようかと考えています」という話を会社に切り出しました。

退職の相談から、なぜ監査等委員という話に繋がったのですか。

当時のユーザベースは、監査等委員会が非常勤の社外取締役のみで構成されていて、常勤の監査等委員がいない状態だったため、「会社のガバナンスをもう一段強化するために、1名専任の常勤監査等委員を置いた方がよいのでは」という議論が、全く違う文脈で出ていたようです。

私が退職を切り出したタイミングと、会社側の体制強化のタイミングが偶然重なり、「新しいチャレンジがしたいなら、ユーザベースで監査等委員をやってみない?」と声をかけていただいたんです。
私も具体的な転職先は決めておらず、会社が嫌になって辞めたいわけでもなかったので、迷いましたが、「任せてもらえるならやってみよう」とお受けすることにしました。

実際に常勤の監査等委員に就任されてみて、いかがでしたか。

正直に言って、自分が想像していたより何倍も難しかったです。
就任して丸1年が経ちますが、この1年間、本当に試行錯誤とチャレンジの連続で、毎日必死でした。
執行役員時代も全社的なリスク管理をやっていたので、会社のことはある程度把握しているつもりだったのですが、あくまで「法務」や「リスク管理」という明確な守備範囲があり、そこでどう貢献するかが判断基準になっていました。

それが監査等委員になった途端、昨日と今日で自分自身は何一つ変わっていないのに、見るべき範囲が全方位に広がりました。
法務だけでなく会計や財務、セキュリティなどの“守り”全般はもちろん、経営の合理性そのものについても一歩引いた視点で見なければならない。
さらに、取締役として対外的に法的責任も背負うことになります。
責任は一気に重くなった一方で、誰かが手取り足取り指導してくれるわけでもなく、実務を動かす自分のチームがあるわけでもない。
いきなり荒野に1人で放り出されたような感覚で、そのギャップを埋めるのが本当に大変でした。

会社全体とご自身の役割が見えているからこその悩みですね。この1年間でどのようにギャップを埋めてこられたのですか。

いくつかの粒度や階層に分けて、地道に努力を重ねるしかありませんでした。
1つ目は、純粋な知識のインプットです。会計やセキュリティの基礎知識など、自分が今まで触れてこなかった領域の専門知識について、本を読んだり、監査役協会の講習を受けたりして勉強しました。
2つ目は、会社の中をより深く知ることです。これまで法務というフィルターを通してしか見えていなかった社内の動きを、現場の情報にアクセスしながら解像度を高めていきました。
そして3つ目は、他社の事例や社会の動きにキャッチアップすることです。世の中で何かインシデントやニュースがあった際に、「うちの会社は大丈夫か?」「同じリスクは潜んでいないか?」と自社に当てはめて検証する。

この3つの異なるアプローチをぐるぐると回しながら、少しずつ全体の解像度を上げてきた1年でした。ただ、ギャップを埋めきるには、まだまだ道半ばですね。

ユーザベースといえば、経済情報プラットフォームである「Speeda」や、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」など、AI時代の波を捉えて常に進化・変化し続ける事業を持たれています。この業界ならではの監査の難しさはありますか。

AIが急激に発展し、世界そのものが日々刻々と変わっていくなかで、AIに淘汰されるのではなく、AIとともに発展していくためには、スピーディな意思決定と実行が不可欠です。
新しいビジネスチャンスを掴むには、新しいリスクにも対応しなければいけませんが、AIに関しては法整備が追いついておらず、先例も少ない。
つまり、誰も正解を持っていない中で、前に進んでいかなければいけないんです。

監査等委員としては、執行側の果断な意思決定を支えるためにも、「絶対に超えるべきではないライン」をしっかり見極めてガバナンスをかけられるよう、社会と自社の変化にキャッチアップしていく必要があります。
とても難しい局面ですが、最先端の経営課題に向き合う面白さも感じています。

また、メディア事業に関しては、「編集権の独立」とガバナンスの両立という、非常に難しいテーマもあります。
こちらも正解がなく、議論し続けるしかないテーマだと思っていますが、信頼されるメディアであるための適切なバランスを見つけていければ、と思っています。

監査役/監査等委員で発揮される弁護士の強み

監査役/監査等委員といえば公認会計士出身の方が非常に多い印象ですが、弁護士が務める意義や強みはどこにあるとお考えですか。

もちろん、法律やコーポレートガバナンスのルールを知っているがゆえに、監督機能を利かせやすいという専門知識での利点はあります。
しかしそれ以上に、弁護士が日常の業務で培ってきた「ソフトスキル」が、この仕事に活きると実感しています。
具体的には、「複雑な事実関係や論点を整理する力」と「人から丁寧に話を聴き出す力」です。

監査役/監査等委員の仕事の本質は、日常的な業務監査の中で各部門の方々とコミュニケーションをとり、「今、現場で何が起こっているのか」「どんなリスクや人の課題が生じているのか」という生の事実を集め、論点を抽出することにあると思っています。
犯人探しのような調査ではなく、現場の方々の声を咀嚼し、会社全体の根本課題として特定する。この「事実関係の整理と論点の抽出」というプロセスは、弁護士が訴訟や紛争解決の中で最も叩き込まれるスキルそのものです。

知識以上に、弁護士の持つ情報収集力とコミュニケーション力が、監査役/監査等委員というポジションにフィットしているのですね。

そう思います。弁護士として訴訟を多く経験してから会社に入り、監査等委員の視点で会社を見渡すと、「訴訟になる前に止められる材料がたくさんあるな」と気づくんです。
予めいろいろな情報をキャッチして、問題が大きくなる前に「こういう対策を打ってみてはどうか」と提案できることもある。

また、各組織と話す中で、実は異なる部署同士が同じ課題で悩んでいたり、他の部署が解決策を持っていることに気づく瞬間もあります。
「先月、別の部署でこういう話を聞いたから、一度話してみたらどうですか?」と、ハブとして繋ぐことができるといいですよね。
監査等委員としての「指摘」という堅苦しい形だけでなく、会社を良くするためのアドバリューを出せる面白さを見出しつつあります。

反対に、苦慮される点などありますか。

会計や内部統制のキャッチアップは、今でも苦労しています。
監査法人の方々とやり取りする際も、最初は「何を言っているのかを理解する」ところから始まりました。できない自分にものすごく悩んだ時期もあります。
ただ、あるとき、監査等委員会は、委員会として組織的監査を行うことが想定されていて、私1人が何でも完璧にこなせる必要はない、と気づきました。
委員会の中には財務会計に詳しい社外取締役の方もいらっしゃるので、適切に役割分担をすればいい。

私の役割は、会計のプロフェッショナルになることではなく、「これは何かおかしいぞ」「リスクがあるかもしれない」と気づくために必要なレベルの知識と、アンテナを高く張っておくこと。
そして、違和感に気づいたら、適切な専門家や委員会メンバーに正しく連携することだと割り切れるようになってから、少し気が楽になりました。

常勤×社外の兼任が生み出すシナジー。キャリアの選択肢を広げるための試行錯誤

武田さんは他社で社外監査役も兼任されていますね。

社内常勤と社外非常勤を両方やらせていただいていることで、好循環が生まれていると感じます。
まず、自分がユーザベースで常勤監査役としての苦労を経験したことで、社外監査役として他社の監査役会に出席した際、「常勤監査役の方々は大変な思いをして情報を集めてくれているんだ」と、裏側の努力が痛いほど分かるようになりました。
そして、「今、常勤の方はこういうコメントやサポートが欲しいのではないか」という視点も持てるようになり、意見を出しやすくなりました。

逆に、社外監査役として、「常勤からこういう粒度や角度で情報共有してもらえるとやりやすいな」と感じたことをユーザベースの常勤として実践したり、他社で得たガバナンスの知見や社外の視点を還元したりすることもできる。
異なる立場や視点を行き来することは、私自身の視座を高め、各社にガバナンス観点で貢献する上で非常に良い効果を生んでいます。

今後、ご自身のキャリアをどのように展望されていますか。

ユーザベースは、2023年の非公開化当初から、再上場を目指すことを対外的に公言しています。
私が常勤監査等委員に就任したのも、上場企業にふさわしい、かつグローバル展開にも耐えうる強固なガバナンス体制を構築するためです。
まずはこの大仕事をしっかりやり切ることが最優先だと考えています。

役割を終えたその先に、また別の会社で常勤監査役をやりたいと思うのか、あるいは社外の役割を増やすのか、もしくは、執行側に戻ってビジネスを動かしたくなるのか、それとも外部弁護士に戻るのか……まだ分かりません。
実は今でも、現場が新しいプロジェクトを進めている話を聞くと、元々執行側にいた人間として「楽しそうだな、混ざりたいな」とウズウズすることはあります。

最後に、今後監査役/監査等委員を目指す女性に向けてメッセージをお願いします。

世間一般には、監査役というと「キャリアの上がりのポジション」とか「一線を退いた人が就くもの」というイメージがまだ残っているかもしれません。
実際に私が30代後半で就任したときも、周りから「早すぎるのではないか」「まだ執行でバリバリやれるのにもったいない」という声がありました。
しかし実際にやってみて思うのは、40代前後の中堅世代にとって、非常にチャレンジングで成長できる打席であるということです。

監査役は、責任を果たすために会社のあらゆる情報にアクセスできるので、「会社の中がどうなっているのかを見たい、理解したい」という好奇心が強い方に、打ってつけの仕事でもあります。
そして、30代・40代のライフステージの変化の中で、劇的に視座を上げられるキャリアの選択肢としては、本当に貴重だと感じています。やることが少ないとか、仕事内容がラクだとは言えませんが、執行側とは違い、自分でスケジュールをコントロールしやすいのも魅力だと思います。

毎日が試行錯誤の連続ですが、大切なのは、「これからの自分の行動で、この挑戦を正解にしていく」ということだと思っています。
好奇心を持って会社をより良くしたい、自分を試してみたいという方は、ぜひ恐れずにチャレンジしてみてほしいですね。

取材・文: 大場 安希子
写真:  田中 有子

       

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