【雨風太陽 野尻常勤監査役インタビュー】
点と点が繋がった「監査役」への道。
経営者の想いに触れたM&Aから企業を支える道しるべに

株式会社雨風太陽
常勤監査役 野尻 瑠璃

公認会計士として、監査法人、メガバンクでのキャリアを歩んできた野尻さん。
転機となったのは、M&Aアドバイザリーとして経営者の人生をかけた決断に寄り添った経験でした。
「経営をより近くで支えたい」という想いを抱き、監査役という新たな舞台を選んだ経緯や、後進の方に伝えたい監査役の魅力についてお話しくださいました。

最終更新日 2026.5.18
※役職はインタビュー実施日現在のものです。

監査からM&Aまで。経営者の想いに触れ芽生えた「経営を支える」視点

まずは野尻さんのこれまでのキャリアの歩みからお聞かせいただけますか。

私のキャリアのスタートは2008年、あずさ監査法人の金融事業部でした。
当時はJ-SOX導入などで非常に活気がある時期で、旧KPMG系の部署だったこともあり、主に外資系銀行や証券会社などのクライアントを担当しました。
それまで海外生活の経験が全くなかったのですが、配属された部署は上司も外国籍の方で、日常的に英語が飛び交う環境でした。
キャッチアップには非常に苦労しましたが、専門知識と語学の両面で鍛えられ、非常にやりがいを感じていました。ここで5年半ほど、監査の基礎を身につけました。

その後、監査法人は退職されたのですね。

はい。夫の海外駐在が決まり、一旦退職してついていくことを選んだんです。
当時はまだ子供がいなかったので、自分のキャリアを一度リセットし、現地の大学でビジネスプログラムを受講するなど、リフレッシュと自己研鑽の時間を過ごしました。
帰国後、2014年に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に転職し、第2のキャリアが始まりました。

MUFGではどのような業務を担当されたのですか。

最初はグループ全体の内部監査を行う部署に配属され、銀行だけでなく証券会社も含めたグループ一体運営の中での財務領域の監査や、企画業務に携わりました。
監査法人時代は「外部」から見ていましたが、今度は「内部」から組織を統制する難しさと面白さを学びました。

この間に2人の子供を出産したのですが、その後夫が大阪で起業することになった際に、MUFGの大阪でM&Aアドバイザリー業務があるからどうかと勧められ、私も大阪に異動させていただいたんです。
当時、下の子がまだ0歳という中で、家族や知り合いのいない土地で新しい仕事に就くことは非常にチャレンジングでしたが、ここで経験した「事業承継の現場」が、今の監査役という仕事を選ぶきっかけになりました。

具体的に、どのようなお仕事だったのでしょうか。

FA(ファイナンシャル・アドバイザー)として、地場の後継者不在に悩むオーナー経営者の方々が会社を第三者に託す際の、M&Aの計画から交渉、株式譲渡契約までの支援をしていました。
親身にお客様の相談に乗る中で、経営者の方々も人生をかけて築き上げてきた自分の会社についていろいろとお話ししてくださるんです。

「創業時は大変で会社に寝泊まりして仕事したもんだよ」といった苦労話や、ご家族や従業員への想いを直接伺う中で、「外部のチェック役」としてだけでなく、もっと経営に近い立場で、企業の成長やガバナンスの向上に直接寄与したいという想いが強くなりました。

そこから監査役という選択肢が見えてきたのですね。

はい。M&Aの現場は面白い一方、非常に多忙で、クライアントワークゆえに時間のコントロールが難しい側面がありました。
育児との両立に悩んでいた際、公認会計士の同期から聞いて「常勤監査役」という働き方を知りました。
監査役は「委任契約」であり、自分の裁量でスケジュールを管理できる部分が大きいです。
もちろん責任は重いですが、企業の成長をガバナンスの側面から支える役割は、これまでの監査・内部統制・M&Aの経験を活かしながらチャレンジできると思いました。

初めて常勤監査役に就任されたのが2023年ですね。

はい。当時大阪に住んでいましたが、フルリモートを条件に熊本のバイオベンチャーの常勤監査役に就任しました。
初めての経験で、当初は「何が起きているか」を現場レベルで理解することに必死でした。
スタートアップの監査役は大企業のような「雲の上の存在」ではなく、非常に現場と距離感が近く、リソースが限られた現場に寄り添い、何に困っているかを理解した上でアドバイスしなければなりません。
経営の視野を持ちつつ、内部統制のために今すべきことを提言していくバランス感覚が重要だと痛感しました。

「雨風太陽」との運命的な出会い。社会性と経済性の両立を目指して

現在の株式会社雨風太陽に就任されたのは2024年ですね。どのような経緯だったのでしょうか。

1社目の企業がIPO準備を一旦やめて事業の立て直しを図ることになったのと、私の東京への転居が重なり、新たな機会を探していたところ、JKK(女性公認会計士による監査役ネットワーク)などの繋がりを通じてお話をいただきました。

雨風太陽は、地方と都市をつなげるという非常にミッション・ドリブンな企業ですね。参画の決め手は何だったのでしょうか。

雨風太陽は東日本大震災をきっかけに、産直プラットフォーム「ポケットマルシェ」などを通じて都市と地方を繋ぐ活動をしている会社です。
実は私の夫が当時公務員で、震災後は復興庁に出向していた関係で福島に住んでいました。
私自身も週末は福島に通って桜の植樹活動に参加をしたりする中で、地元の方々と家族のような交流が生まれ、その温かな繋がりは今も大切に続いています。
ですから、この会社の成り立ちと自分の経験に深い縁を感じ、代表の高橋が掲げるミッションに深く共感しました。

実際に高橋代表にお会いになっていかがでしたか。

ちょうど2024年1月の能登半島地震が起きた直後の面接でした。
代表の高橋は現地での炊き出し支援から戻ったばかりで、現場の雰囲気を帯びた様子で現れました。
彼は「こういう社会的な事業だからこそ、ガバナンスが極めて重要だ。しっかり見てほしい」と言ってくれました。
トップがガバナンスを「ブレーキ」ではなく、社会的な信頼を得るための「基盤」と捉えていることに感銘を受け、就任を決めました。

成長フェーズにおける「攻め」と「守り」のバランス

現在の業務において、特に意識されていることは何ですか。

雨風太陽は私が就任する少し前に東証グロース市場に上場しています。
ステークホルダーも多くいるわけですし、社会的に良いことでも会社として利益が出なければ持続できないので、社会性と経済的合理性を両立させていきたいと考えています。
「経営理念として掲げる高い社会性と、企業として不可欠な経済的合理性。この両輪がどちらかに偏ることなく、等しく尊重される経営判断がなされているか。」
そこを監査役として、投資家の方々の視点も踏まえ、冷静に今のフェーズでその投資が適切かを提言することを意識しています。

1社目のお話にも出ていたバランス感覚が求められますね。

そうですね。成長フェーズのスピード感を阻害せずに合理的な提言をしなければなりません。
ですから、単に「ダメです」と指摘するのではなく、他社の事例や自分の経験をセットにして、解決策を提示するようにしています。

子育てとの両立についてはいかがでしょうか。

現在、小学生と保育園児の2人の子どもを育てていますが、常勤監査役という職種は、プロフェッショナルとしてのキャリアを維持しながら、ライフステージに合わせて柔軟に働ける、女性にとって非常に親和性の高い仕事だと思っています。
年間のスケジュールがある程度決まっているため、育児との組み立てがしやすいのが最大のメリットです。
今しか持てない家族の時間を大事にしたいと考えているので、現在のような働き方ができることは、とてもありがたいですね。

AI時代の監査役。効率化の先にある「人間ならでは」のクリエイティビティ

今後の展望についてお聞かせください。現在は他社で非常勤監査役も兼務されているそうですね。

はい、現在は上場準備中の企業2社で非常勤監査役を務めています。
1年半ほど前から兼務を始めましたが、他社での知見やナレッジを自社にシェアできますし、「他社ではこういう事例がある」という具体的な裏付けを持って提言できるため、発言の説得力が増すと感じています。
時間管理の面でコントロールは必要ですが、チャンスがあれば今後も異なる業種の企業を経験し、自分の幅を広げていきたいですね。

これからの「雨風太陽」での役割については、どのようにお考えですか。

東証グロース市場における上場維持基準の厳格化など、今後さらに大きな経営判断を求められる場面が増えていくでしょう。
そうした中で、会社を支える人材として、しっかりとアンテナを張っていきたいと考えています。
また、技術の進化への対応も不可欠です。現在、監査実務におけるチェックリスト形式の作業などは、徐々にAIで代替可能になりつつあります。
私たちはオペレーションの効率化にAIを積極的に取り入れ、それによって生まれた時間を「人間にしかできない仕事」に充てるべきだと考えています。

「人間にしかできない仕事」とは、具体的にどのようなことでしょうか。

雨風太陽のような強い哲学を持つ会社においては、単に「AかBか」という合理的な正解を出すだけでなく、時には「回り道をしてでも大切にすべきこと」を見極める判断が求められます。
間合いや空気感を大事にしながら、長期的な視点に立ったリスク管理や、企業のアイデンティティを守るための提言をすることで、人間としてのバリューを発揮していきたいと考えています。
AIで効率化した分、クリエイションに磨きをかけて、毎年同じことをするだけの業務からの脱却を図っていきたいです。

最後に、これから監査役を目指す女性たちにメッセージをお願いします。

常勤監査役は、ライフステージの変化に直面する女性にとって、キャリアを継続しやすく非常にやりがいのある仕事です。
会計士として培ってきたプロフェッショナリズムや倫理観は監査の実務に直結しますし、大きな責任と共に「裁量」を持って働ける点が最大の魅力です。

監査役を目指すタイミングや資格の有無について、気になる方もいるようです。

私自身は、出産を経て今この道を選んだことに、とても納得感を持っています。
若いうちに現場でハードワークをこなし、そこで得た知見を携えて、育児との両立が必要な時期に監査役として裁量を持って働く――私にとっては、このステップを踏んだことが、今の自分らしい働き方に繋がっていると感じています。
家族との時間を大切にしながら、会社全体を俯瞰して企業の成長に関与できるこの経験は、将来のキャリアをさらに広げてくれるはずです。

また資格については、もちろん強みにはなりますが、それ以上に「ビジネス全体を深く理解しようとする姿勢」が何より大切だと実感しています。
会計士や弁護士といった枠にとらわれず、現場を知る多様なバックグラウンドを持つ方々が監査役として活躍する機会が、今後さらに広がっていくことを願っています。

       

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