【ACNホールディングス 荒堀常勤監査役インタビュー】
「監査役は未来をつくる仕事」
先人に学び、道を切り拓き続ける私の挑戦
株式会社ACNホールディングス
常勤監査役 荒堀 敬子
初めての監査役就任から今年でちょうど10年を迎える荒堀さん。
男女平等で働きやすい時代を切り拓いてきた先人たちへの感謝、ご自身がいま成すべきことや監査役という職務を通じた未来への貢献についてお話しくださいました。
最終更新日 2025.5.23
※役職はインタビュー実施日現在のものです。
「未来をつくる」を意識し始めた30代
キャリアのスタートは監査法人だそうですね。
はい。大学卒業後に公認会計士の資格を取得し、大手の監査法人に入所しました。
そちらでは住宅製造販売メーカー、医療製造販売メーカー、催事場運営会社など一般企業の会計監査を担当しました。ベンチャー企業のIPO支援なども興味はありましたが、携わる機会は少なかったです。
会計監査で行うのは過去の情報についての正しさを検証するということですが、徐々にもっと未来を作っていく仕事をしたいと考えるようになりました。
その後、日本から東アジア・東南アジアに海外進出する企業向けのコンサルティングファームを経て、2015年にユーザベースで初めて監査役の職務に就きました。
初めて監査役に就かれたのは30代半ばということになりますが、どのようなきっかけだったのでしょうか。
当時は東京に住んでおり、1歳の子どもの育児をほとんど1人で行う状況でした。
実家のある関西からも離れており、そもそも働けるのかという不安がある一方で、働くなら時短などの時間的な制約を受けずに思い切り仕事をしたいと考えていました。
そこで監査役であれば、これまでの経験やスキルを活かして監査における指導的機能(コンサルティング機能)と保証機能を発揮しながら仕事ができると考え、受けることにしたのがきっかけです。
監査役という選択肢は以前から視野に入れていたのですか。
求人を見たり、会計士向けのエージェントとして働いている友人から話を聞いたりする中で知るようになりました。
その方は資格取得のために通っていた専門学校時代の友人ですが、今になってその頃のご縁がいろいろなところで繋がってきています。
東京から関西に戻ってきた時も仕事をご紹介いただいたり、こちらからも紹介したり、情報交換し合ったりと、とても有難いです。
現代の監査役の仕事術。システムの中に内部統制を組みこむ重要性
常勤監査役になられた翌年にユーザベースは上場していますが、上場前後で仕事の内容は変わりましたか。
上場準備段階も大変でしたが、上場後も成長スピードが速い会社だったので、組織の変動や会社の買収などで変わっていくビジネスモデルに合わせて仕組みやルールを整えていくことが大変でした。
企業の仕組みやルールを整える内部統制の一環として、システムの中に内部統制が組み込まれているかを確認することは、必要な仕事内容になってきていると思います。現代は情報量が膨大で、成長する企業ほど変化のスピードも速く、グローバル化も必須となる中で、手作業でダブルチェックや紙でチェックするのは人手不足もあり、絶対的に無理ですよね。
そこで会社のシステムがどういう設計で、データがどう連携されるかが重要になってきています。
システム化・データベース化に注力すると統制としても強化できますし、できること・できないことがシステム的に制御されるので利用者側も意識せずにルールを守れるようになります。
なるほど。現代の内部統制はシステムと切り離せないですね。
はい。組織の中にどのような部署があり、どのような役割を担っているのかに紐づけて適切に権限が付与され、業務の流れとルール、責任範囲が実態に即してシステムで統制されていると、監査の観点ではしっかりした会社であると言えると思います。
異業種へのチャレンジと気づき
昨年ACNホールディングスの常勤監査役に就任されていますが、これまでのIT系の企業とは毛色が異なりますね。
はい。ACNはオフィスを軸とした総合ソリューション事業の会社です。
従来担当してきたIT企業と比べると、形あるものを取り扱うリアル産業という点で毛色が異なりますし、これまでの会社はスタートアップが多く社長が30~50代と同世代だったのに対し、ACNは30年近くの歴史を持つ会社で60代の創業社長です。
今回は、自分の監査役としてのイントラパーソナルダイバーシティ(個人内多様性)を強化したいと考え、敢えてこれまでとは違う会社にチャレンジしました。
これまでと違う環境にチャレンジしてみて、いかがですか。
結局のところ、物事の本質は若い会社も歴史のある会社も変わらないということに気付きました。
どんな会社でも大事なのは、その組織文化を尊重することと、自分の思いを丁寧に伝えることだと再認識しました。
組織文化を理解するためにどのようなことをされましたか。
ACNでは就任する前に、「少し時間を取ってお互いに様子を見ましょう」とご提案し、1か月間いろいろな方とお話しさせていただくようにしました。
その期間に役員の皆さんと一通りお会いしたのですが、皆さんに私を知っていただきながら、私も会社の問題点や改善点を大まかに知っていくことで、互いが抱いていた期待や認識のギャップを埋めることができたと思います。
ルーチンはシステマチックに、子どもとの時間は濃いものに
荒堀さんは2人のお子さんのお母さんでもいらっしゃいますね。仕事と子育ての両立で工夫されていることはありますか。
今は実家の近くに住んでいるので、かなり実家の親に頼っています。
基本的に夕飯は私が作るようにしていますが、やはり遅い時間に会議が入ったり出張したりする時は、事前に親に頼んで子どもたちの面倒を見てもらっています。
東京に住んでいた時は実家も離れていたため、シッターさんや地域・行政のファミリーサポート、家事代行などを最大限に活用していました。
特に子どもがまだ小さい頃は、しょっちゅう熱を出したりして保育園から呼び出しがかかりますよね。そういう時のために頼る先のショートリストを作っておいて、順番に電話をかけていくなんていうこともしていました。
事前に体制を整えておくのですね。
そうです。病気にかかることを前提としたオペレーションを組んでいました。
今は2人とも小学生なので病気は減りましたが、今度は進学・進級に伴って生活の時間帯が変わったりしますよね。
毎朝の出発時間や用意しなければいけないことなど、変化がある時にはオペレーションを書き出して、何度か時間を記録し、そこから逆算して起きる時間を決めたりしています。
やはり子どもたちもルーチンが決まっていると動きやすくなるようで、結果的にお互いに楽に過ごせています。
とてもシステマチックに組み立てられていますね。お子さんとの時間はどのように過ごされていますか。
2人姉弟なのですが、それぞれにお母さんを独占できる時間も大事なのではないかと思い、1対1の時間を持つようにしています。
長女とは一緒に乗馬をやっていますし、長男には寝かしつけの時間にたくさん本を読んであげます。
子どもたちと過ごす時間が比較的短い方だと思うので、一緒にいる時間はできるだけ濃くしたいですね。
先人たちの延長にいる私たちが成すべきこと
今後やってみたいことや、どのようにお仕事をしたいといったイメージはありますか。
監査役かどうかにかかわらず、自分に与えられた能力を最大限に発揮して、世の中に還元していきたいです。
経営者のためになるような仕事をしたいと常々考えていますが、その根底には、経営者を通じて世の中の成長と未来をつくることに寄与したいという気持ちがあります。
荒堀さんはいくつか他の会社の監査役もされていますが、他社も担当されることの意義やメリットなどお感じでしょうか。
そうですね。IT系のスタートアップからはデジタル化などの面で最新の動向を勉強できますし、内部統制が進んでいる企業からは法改正をどう適用するかなどの知見を得ることができます。
他社を担当することで学んだ事例や動向は、近い将来ACNで起きることでもあるので、活かせるように努めたいと思っていますし、その逆も然りです。10年前、監査役を始めたばかりの頃は、私のような者が経営者と話していいのかという遠慮があって、その心の壁を取るのに時間がかかりました。
ですが、他社の監査役もやるようになり経験を積み重ねたことで自信がついていきました。
そういう点でも、他社も見るというのは意義のあることだと思います。
最後に、今後監査役を目指す女性へのアドバイスやメッセージをお願いします。
覚悟を持つということが大事だと思います。
初めて監査役になった時に、監査役の大先輩である女性から「絶対に休まないという気持ちで頑張りなさい」とお言葉をいただきました。
小さい子どもがいるから休んでもいいという心構えは、役員という社会的な立場を持った者として自分のためにならないから、きちんと覚悟を持ってやるようにという意味だと思います。
この言葉は折に触れて、本当にその通りだなと思うことが多く、私が持っているエネルギーをすべて従業員や組織のメンバー、その先のステークホルダーに使うように、言葉通り全力で取り組んできました。
また女性という観点で思うのは、男女平等で働きやすい時代に甘えるだけでなく、その道を切り拓いてきた先人たちを意識すべきということです。
以前、男女雇用機会均等法成立の中心的な役割を担われた当時の労働省の女性の話を聞いたことがあるのですが、その方はお子さんもいる中、泊まり込みで法の成立に尽力されたそうです。
そうやって切り拓いてくれた方々がいて、その次の世代が仕事を通して少しずつ世の中のバイアスを変えてくれて、その延長線上に私たちの世代がいます。ですから私たちも、そうやって切り拓いてもらった今の状況に甘えるだけでなく、さらに未来の人たちに繋がるように切り拓き続けていく存在になりましょう、と伝えたいですね。
取材・文: 大場 安希子