【メディアドゥ 中島社外常勤監査役インタビュー】
「世界は面白いコトにあふれている」
監査役への挑戦で開けた新境地
株式会社メディアドゥ
社外常勤監査役 中島 真琴
国家公務員から監査法人を経て、3社の監査役としてご活躍の中島さん。
好奇心旺盛な中島さんならではの職業観や、3人の子育てを経験されているからこその強み、社会貢献への思いについてお話しくださいました。
最終更新日 2024.12.4
※役職はインタビュー実施日現在のものです。
国家公務員から監査法人へ
キャリアのスタートは国家公務員だそうですね。
はい。当時の建設省(現国土交通省)で行政官として働いていました。
大学は、数学や物理が得意だったことや絵が好きだったことから建築学科に進んだのですが、周囲の建築家を目指す人たちが寝る間も惜しんで設計しているのを見て、そこまでの情熱はないなと建築家にはなりませんでした。
一方で、色々なことをやってみたいという好奇心は強かったので、2年ごとに部署を異動することが多いと言われる国家公務員に魅力を感じるようになりました。
田舎で育って公教育などの面で国や地域に支えてもらったという思いもあり、日本社会に貢献したいという気持ちが強く、国家公務員を選んだというのが経緯です。
公認会計士の資格を取得されたのは、社会人になられてからなのですね。
そうですね。建設省に入省後は建築物のバリアフリー化に携わり、障害者団体や公共施設の設計担当の方々と議論してバリアフリー化を進めるなど、社会貢献という点では思い描いていた仕事ができていました。
ただ、毎日終電かタクシーで帰るような働き方だったため、長くは続けられないと感じていたんです。
当時の省庁の方々は出産後も働き方を変えず、親に子育ての大部分を担ってもらうケースが多かったのですが、私は将来的に自分の手で子育てをしたいと考えていたので、公認会計士の資格を取得し、監査法人で働くことにしました。
監査法人ではどのような業務を担当されたのですか。
元公務員ということで、大学や研究機関などのパブリックセクターを担当しました。
監査法人の仕事で楽しかったのは、決算書を作るための手続きや調査よりも、業務プロセスをチェックするといったような、業務をどうやって進めていくのかを現場の人と話すことでした。
好奇心が強い私にとって、人や物事への興味が満たされる楽しい時間でした。
また30歳を過ぎた頃に子どもを授かり、その後15年の間に3人の子育てと仕事の両立を図りながら業務に従事しましたが、監査法人はとても居心地がよかったですね。
一番下の子どもが保育園に入って落ち着いてきた頃に、そろそろほかのこともやってみたいなと新しい挑戦を求めて、事業会社の内部監査室に転職しました。
監査役への転職活動と会社選び
初めは監査役ではなく、内部監査室に転職されたのですね。
私としても、当初は監査役で転職先を探していて、エージェントに相談に行ったんです。
そうしたところ、「監査役はこれからいくらでもできるけれど、一正社員として現場に入って中の人と机を並べて仕事するというのは今しかできないから、まずは内部監査室で働いてみるといい」とアドバイスをいただきました。その時は驚きましたが、今振り返ってみると確かにその通りで、監査役の立場で上がってくる情報と現場の情報というのは全然違うと分かります。
現場の人間模様や、どういうところで悩むのか、また現場のチームワークがどう形成されていくのか……など身をもって経験することができました。
初めて民間企業の正社員として働いたことで、現場の奥深さを知りましたし、自分がこれまでいかに狭い世界で、全部知ったような気分でいたのかを思い知りました。
どのような基準で会社を選ばれたのでしょうか。
ひと言でいうと、社風というところが大きかったと思います。
メディアドゥは「著作物の健全なる創造サイクルの実現」をミッションに掲げており、これは日本国著作権法第一章 総則の第一条に謳われる「著作物は文化の発展に寄与」、「著作物の利用と保護の調和」に基づくものなんです。
昨今、資本主義ゲームに勝つことに重点を置くような会社も多い中で、この誠実過ぎるメディアドゥのミッションには驚きつつも、惹きつけられました。
そしてその誠実なミッションを掲げた社長に実際にお会いしたところ、非常にエネルギッシュで、このミッションにも本気で取り組んでおられると感じ、直感的にこの会社に貢献したいと思いました。監査役の仕事というのは、第一義的には取締役の業務執行の適正性をチェックする役割ですので、社長が誠実で本気の姿勢で取り組まれていると、とても安心感があります。
会社理念への共感や社風が合うというのは重要なことなのですね。
重要だと思います。
これは入社後に知ったのですが、メディアドゥが求める人材の特徴を表す言葉として、「私たちを育んでくれた環境を感謝でき、敬意を持って自ら動く人材」が定義されています。
この会社の持つ、社会貢献や仕事を通してこれまでお世話になったところに恩返ししたいという考え方が、私の感覚と同じだな、と思いました。
自分の直感を信じて、この会社に就任してよかったです。
クリエイティブな土壌を支える高いリスク感度
貴社が監査役に求めることとはどのようなことだと思われますか。
メディアドゥは電子書籍を中心としたシステム開発をする会社ですが、ゼロからイチを生み出すクリエイティブ人材が多くを占めるので、人の成長が頼りです。
そのため、人事制度の改革や新しい人材育成の取り組みに力を入れていますが、発展途上にある制度や取り組みなので、一朝一夕に完成された管理体制を築けるわけではありません。
このような成長真っただ中の会社で監査役に求められているのは、そこをうまく折り合いをつけながら管理体制も育てていくことだと考えています。また、私自身は元公務員で監査法人出身ということから、論理的整合性を重視し、減点主義でリスクに過敏な思考回路の持ち主です。リスク感度が良いと言ってもらえることもある一方で、そういった特性がコンプレックスでもありましたが、この会社のように私とは反対のクリエイティブな人材が集まっている中では、思考の癖が違うからこそ貢献できることもあるのかなと思っています。
これまでのご経験は、監査役のどのようなところに活きていると思われますか。
公認会計士の経験から活きているのは、やはり論理的思考や、リスクの道筋が見えるといったところだと思います。
ほかに私の強みだと思っているのは、3人の男の子の子育てを経験してきているところです。
子どもの成長過程でも、リスクを感じることは多くあるのですが、だからと言ってすぐにダメだと制してしまうと可能性がなくなってしまうので、見守ることの大切さを学んできました。
若い人の能力の高さや閃きの鋭さ、頭の回転の速さは本当に感心するものがありますし、リスペクトしています。
そのリスペクトがあるからこそ、信じて見守ることができるのかな、と思っています。
これまでの仕事だけでなく人生経験が活かせる職務ということですね。
中島さんはいくつかほかの会社の監査役もされていますが、そのご経験については意義やメリットなどお感じでしょうか。
意義として大きく二つありますが、一つは単なる知識に止まらないリアルな経験として情報が得られるというところです。
他社の監査役を担当する前は、監査役協会へ行って「ほかの会社はどう対応していますか?」などと聞くことで情報を入手していたのですが、実際に他社で監査役として現場へ出ることで、より深くリアリティのある情報を得られるようになりました。もう一つは、他社で出た論点を自社に活かしたり、その逆もあったりという相乗効果でしょうか。
今このタイミングで東証から何を望まれていて、何をしなくてはいけないかといったことはある程度どの企業にも共通していたりもしますし、例えばメディアドゥはIT企業でもあるのでセキュリティ対策などは非常に進んでおり、そういう部分を他社にフィードバックしたり、逆に当社に足りない部分を他社での経験から参考にできたりします。
会社の文化を汲み取ることの重要性
取締役会や監査役会に臨む際、どのような準備をされていますか。
そうですね。まず、会社が目指しているものをしっかりと読み込み、組織の文化を含め理解した上で発言できるように準備をして、臨むようにしています。
監査法人の立場で外から会社を眺める限りでは、どの会社も各決議において教科書的な同じ方向性で役員が判断するものと思っていましたが、実際には社長やそれぞれの役員が大切にする価値観によって結論が大きく異なることを知りました。
監査役には、会社の目指す方向性を理解した上で、必要な時には適切なタイミングでストップをかけることが求められます。
同じ発言でも会社によって受け取られ方が異なるため、歴史や背景を含めた文化を理解し、その人たちが何を大切にしているのかを汲み取ることが必要と考えています。
どんなところから文化を汲み取っているのでしょうか。
会社の資料や刊行物からはもちろんですが、メディアドゥでは社長が朝会などで社員に向けてお話しされる機会が多くあるんです。
しかも部長以上の役職者だけでなく、新人も含めた若い社員にも社長のやりたいことや昔話を共有するので、社長の考え方や大切にしていることを皆が理解することができます。
私もそういった機会や、社内のいろいろな人と話をする中で、この会社の文化を汲み取るようにしています。
若い世代へのリスペクトと今後の展望
先ほど、3人のお子さんのお母さんというお話がありましたが、子育てとの両立はどのようにされていますか。
長男が高校生、次男が中学生、一番下の子どもは小学1年生です。3人目ともなると、昔ほど神経質にならず、ある程度自由に子育てができるようになりました。
例えば長男は、小学生の時に宿題を一切やりたがらず心配することもありましたが、中学受験を経て、今では交換留学生としてアメリカで生活しています。子どもと向き合い、一緒に真剣になって取り組んだ経験があれば、どこに集中すべきかが見えてきますし、必要な時には自分で頑張れると信じられるようになると思います。
全てを完璧にする必要はなく、いざという時に頑張れることが大切です。子どもたちをリスペクトし、諦める時は諦めて無用な心配をしないことが、私の思う仕事と子育ての両立のコツでしょうか。
お子さんたちを、独立した一人の人としてリスペクトされているのですね、とても素敵です。
今後、ご自身としてはどのようにお仕事をしていきたいですか。
まずメディアドゥについて言うと、コロナ禍においては電子書籍の配信で業績が大きく伸びた一方、コロナ終息以降は少々落ち込んでいるため、現在N字回復を目指しています。
その成長を見届けたいと思っていますし、そのために自分が何をできるかをしっかりと考え、実行していきたいです。しばらくは監査役として経験を積みたいですが、将来的には若者の起業支援をしたいとも考えています。
日本の経済成長が鈍化している中で、監査役という枠にとどまらず、新しい会社を立ち上げる若者を支えることが社会貢献になると考えているからです。
最後に、今後常勤監査役を目指す女性にメッセージをお願いします。
監査役をやるとなれば、これまで専門としてきた分野に限らず、新たに勉強しなければならないことがたくさんありますし、知識だけでなく人を観察する力を磨くことや、経験のない技能を学ぶなど、身につけるべきことも多くあります。
ですが、そういった未知の領域に興味を持てる方、面白そうだと思える方なら、きっと楽しめると思います。
私は監査役にチャレンジしてみて、自分が今まで何も知らずごく一部の狭い世界しか見ていなかったということを思い知りながらも、楽しんでいます。
飛び込んでみたら新たな世界が見えるはずなので、ぜひ挑戦してみてください。
取材・文: 大場 安希子
写真: 田中 有子