【and factory 前田監査役インタビュー】
「人間性がなければ務まらない」15回の転職・会社経営・倒産を経験した監査役
and factory株式会社
常勤監査役
前田 晴美
労働者のストレス指数が先進国の中でもトップクラスの日本。
「好きなことで生きていく」というキャッチフレーズとともに働き方が注目されるようになりつつも、胸を張って「仕事が楽しい」と言える人は少ない現実です。
そんな中、and factory株式会社(以下、and factory)の監査役である前田晴美さんは、「生涯現役で好きな仕事をしていきたい」と迷いなく言います。
現在の監査役に至るまでの転職経験は、なんと約15社。
新卒で地方銀行に勤務してからITに魅了されてから独立、会社を立ち上げるも倒産するなど数々の波を経験されたそう。洗練されつつある前田さんの「キャリアの楽しみ方」は、きっと多くの働く女性を勇気づけてくれることでしょう。
最終更新日 2020.06.29
※役職はインタビュー実施日現在のものです。
※新型コロナウイルス対策のため、Web会議ツールを利用して2020年6月3日にインタビューを実施しました。
銀行員からITへ転身、会社経営。IT×女性の強みをいかしたキャリアップ
15社のご転職経験と聞いて驚きました。その経緯をお伺いしたいです。
数字に表すとびっくりしてしまいますよね(笑)キャリアのスタートは新卒で地方銀行勤務でした。高卒でコンピューターのコの字も知らなかったのですが、銀行業務でコンピューターに触れたことがきっかけで、ITに魅了されたんです。今のようなコンピューターとは全く違って、画面が3行しかない機材を使っていたんですが、面白みを感じたんですよね。
そこから一念発起してITを軸に数々の会社に転職するのですが「女性でITを扱える」といった立ち位置が当時珍しくもあり、転職自体に大きな苦労はありませんでした。当時のIT会社というと、外資で新規事業をしている会社が多かったんです。そのためM&Aで人員整理があることも多々あり、事業が縮小していくタイミングで転職していました。
会社を経営された経験もご経験されてらっしゃるんですね。
30代で個人事業を立ち上げたのですが、メンバー3人で売り上げが月に300万円を超える時期もありました。そこから開発会社を立ち上げて3社から3億円の出資もいただき、IPOも目指していたんです。従業員も30名ほどいましたし、とにかく仕事が好きで無我夢中で仕事をしていました。
しかしその会社はたった2年で人員整理が始まり、どんどん業績が落ちてしまい潰してしまうのです。あまりにもあっけなく終わってしまいました。
当時は仕事に熱中しすぎてメイクをしないのも普通でしたし、多忙とストレスで髪の毛が抜けてしまって、身体は限界を感じていました。会社が潰れてからは、自分の仕事のあり方を考え直しました。経営者として責任やプレッシャーを感じて働くのはもうやめよう、自分が最前線で頑張るよりも、誰かを後ろで応援していく仕事をしていきたいと思ったんです。サラリーマンに戻って自分の好きなように働こうと決めました。
倒産を経てもう一度、経営の道へ。監査役という仕事との出会い
もう経営はやらないと思ったにも関わらず、監査役になった理由を聞かせてください。
株式会社ロコンドに入社してからはプロジェクト・カスタマーサービスマネージャーを務め、内部監査人を経て常勤監査役というキャリアを歩みました。
ITと経営の基礎知識はあるものの、監査役の話をいただいた時は正直「嫌だな」と思ったんです。みんなで楽しく仕事をしていたのに、どうしてまたあんなに孤独で辛いポジションに戻らないといけないのだろうか……そう考えるとすぐには決断できず一週間、時間をもらいました。
しかしながら若い人たちが多い会社でもあったので、自分の年齢的に今後のキャリアを考えても、また挑戦してもいいんじゃないかなって思えたんです。
もちろん初めての経験なので「監査役ってなに?」と本やネットの記事を読むところからのスタートでした。運良く、上場経験のあるCFOと女性の社外監査役からアドバイスをいただける環境にはありましたが、最初は「何がわからないかもわからない」状態だったんです。
常勤監査役になって最初の数ヶ月は、情報収集のみで何もできませんでした。半年くらいはずっと一人で模索していた状態で、メンタルが病む直前でしたね。
そのような状態からどうやって、監査役の仕事に慣れていかれたんですか?
横のつながりに助けられたことは大きいです。
当時、社外取締役の紹介で他社の監査役を紹介いただきいろいろと相談させてもらったり、日本監査役協会に顔を出すようになって、初めて同じ境遇を経験している監査役たちに出会えました。
監査役は社長と同じ責任を背負っているかつ、どこにも加担できない立ち位置ですし守秘義務もあるので、とても孤独だったんです。でもそこで同じ境遇の仲間に出会えたことで、誰にも言えない悩みや問題を共有できたんです。
監査役というと60歳以上の男性が多いイメージがありますが、実は私たち世代の女性も多く在籍しています。日本監査役協会に行くと自分から話かけにいかなくとも、たくさんの方が名刺交換をしてくださいます。最初は顔と名前を覚えるのが大変なほどですが、仲良くしていただくうちに仕事に活きる学びが得られるのは、とても心強かったですね。
先輩監査役が使われている、監査役独特の表現、言い回しやわかりやすい表現なども、すぐにまねをして私も現場で使ったりしているほど、実践的な学びが多いです。
仲間との出会いに救われた日本監査役協会
日本監査役協会での横のつながりが、前田さんの仕事にいい影響を与えてくれたのですね。
そうですね。今でも壁にぶち当たったら、監査役の仲間にアドバイスもらいに行くのですが「一時間だけ相談に乗ってください」と言って会社に赴くこともよくあります。公認会計士出身の方も業務出身の方もそれぞれの経験と知見があるので、私の場合は、問題が解決できるまでいろんな方に聞きまくるんです。
日本監査役協会をどう使って仕事に活かしていくのかは、誰かが教えてくれるものではないので、最初は何をしたらいいのかわからない方も多いように思います。私がたくさんの方に声をかけてもらって救われたように、今度は自分も初めて監査役に就任される方々には積極的にお声がけしたいと思っています。
私はあまり勉強が好きではないのですが、この仕事に出会って初めて勉強が楽しいと思えてたんですよね。日本監査役協会でのセミナーも4時間あるのですが、今までの私がそういった長時間のセミナーを受けるときは、いつも寝てしまうんです(笑)でも監査役の勉強はそういうことがほとんどなく、興味津々なんですよね。会計や法律の知識も初めて学んでいますが楽しんでいます。
スキルだけでなく求められる「人間性」緻密な工夫の裏で支える経営
女性の監査役が求められているとよく耳にしますが、働いてどう感じますか?
就任当時からダイバーシティの考え方が求められていたというのもあり、監査の経験があるかつ女性でITに強い私を常勤監査役に抜擢してもらえました。
周りの会社を見ていても、女性の社会進出が進んでいる今だとなおさら、女性の監査役が求められているように感じます。
監査に関しては、私は問題が起きる前の予防監査という考え方に重要性を感じています。
リスクは人から生まれるものなので、常に人間を見て、「個人的問題を抱えていないか」「会社に不満を持っていないか」とアンテナを張っています。
会社ではすぐに解決できない問題がほとんどですが、誰かに話を聞いてもらえるだけで、スッキリする人が多いんです。会社にとって一番のリスク軽減は、一人一人のそのようなモヤモヤを解消してあげることだと思っています。
社内常勤監査役と社外常勤監査役での意識はどう変わりましたか?
株式会社ロコンドで社内常勤監査役をしていたときは、もともと勤めている会社の社内の現場をみていました。現在のand factoryでの社外常勤監査役になったときは、一緒に仕事をしたことのない人たちの監査をしなければならなかったので、より一層、寄り添う視点が必要でした。
特にand factoryは平均年齢も20代後半ですし、その方々から見れば私は異色に思われるのも無理はないです。だからこそ、顔が怖くないように笑顔を心がけたり、髪型や服装も柔らかい印象にしたり、できるだけ柔らかくものごとを伝えることも意識しています。メイクもせずにストイックに仕事をしていた時期とは変わって、社会性を意識しつつ仕事ができている今は、すごく楽しいです。常に時代の新しいものを取り入れていく姿勢も大事だということも感じています。
監査役はコミュニケーションが重要だと思っています。監査というと警戒されてしまうことも多いので、可能な限りみなさんと接点を持つよう心がけていますね。
例えば何人か誘って、ランチをしながらコミュニケーションをとったりしています。また、みなさんから飲み会に誘っていただけたら、何よりも優先して参加するようにしています。
今後のキャリアについてはどのように考えていますか?
生涯現役で仕事をしていきたいです。監査役だけではなく、複数の事業に関わりつつ誰かのために仕事をしていきたいと思っています。
実は私の母親が申請のミスで年金をもらえなくて、苦労した様子を近くでみていたんです。だからこそ私は、一生働いていきたいと前々から思っていました。誰にも評価されなくとも、自分の好きなように働ける環境は私自身にも合っているので、会社員にはもう戻れないんじゃないかと思っています。
監査役というキャリアを積み上げつつ、楽しく好きな仕事をし続けていきたいです。