監査役監査の基礎とIPO審査で見られるポイントとは その3

プロジェクト・オーシャン株式会社

代表取締役 早川智也

上場審査での主なチェックポイントと指摘事項の傾向(監査役関連):
上場審査担当者(主幹事・取引所)は、監査役監査に関して以下のようなポイントを重点的にチェックし、不備があれば指摘してきます。
常勤監査役はこれらを念頭に置き、事前準備や内部対応を進めておく必要があります。

  • 取締役会出席率:監査役の取締役会への出席状況は基本的事項です。審査では「全監査役が毎回出席しているか」が確認されます。
    理由のない欠席や一部監査役だけ出席していない等の事実があると、ガバナンスへのコミット不足として懸念されるでしょう。
    (対策:上場申請前の取締役会は原則全員出席させ、やむを得ない欠席は議事録に理由を明記。)
  • 監査役会の開催状況:監査役会が定期的かつ適切に開催されているかも審査で見られます。
    例えば「監査役会は年間何回開催したか」「重要な報告・決議事項は議事録に残っているか」等です。
    開催頻度が少なすぎたり、議事録が形式的だったりすると問題視されます。
    (対策:少なくとも月1回開催し、主要な監査報告や協議事項を議事録に記載。必要に応じて臨時監査役会も開催。)
  • 監査計画と実績の整合:監査役監査の計画と実施内容が整合しているか確認されます。
    計画倒れになっている項目がある、監査調書が不十分といった場合、監査の実効性に疑問が投げかけられます。
    (対策:計画した監査を全て実行し、調書を完備。未実施項目がないよう進捗管理を徹底する。)
  • 三様監査(内部監査人・会計監査人との連携):監査役が内部監査部門・会計監査人と四半期ないし半期ごとに意見交換しているかチェックがあります。
    議事録提出を求められることもあります。これが未実施だと「監査人同士の連携不足」と見なされ指摘を受けます。
    (対策:四半期ごとに三者ミーティングを開催し議事録化。交換した情報や協議内容を記録しておく。)
  • 内部監査の有効性:内部監査が形骸化していないかも注目点です。例えば「内部監査を◯件実施し◯件の指摘を行った」といった運用実績を問われます。
    内部監査を始めたばかりで件数が極端に少なかったり、指摘ゼロであれば「本当に機能しているか?」との疑念を持たれかねません。
    (対策:内部監査計画を前倒しで実施し、重要な業務領域を一巡監査。何らかの指摘事項を出し改善させた実績を作る。)
  • 監査指摘事項の内容と対応:監査役や内部監査人から上がっている指摘事項の内容と、その改善対応状況も審査で確認されます。
    重要な不備が放置されていれば問題ですが、逆に指摘事項が皆無だと監査不足と捉えられることがあります。
    (対策:指摘事項一覧を用意し、対応状況を一覧化。重大なものは全て「対応済または対応中」であることを示す。軽微なものも含め適度な件数の指摘があるよう内部監査と協力。)
  • 内部統制システムの不備:業務処理やコンプライアンスの内部統制に弱い部分がないかチェックが入ります。
    特に「社長や創業者の交際費は内容・金額ともに妥当か」「事後稟議が多数発生していないか」「役職員の労働時間の管理は適切にされているか」「事業運営に免許や許認可が必要な場合、それらが適切に取得・更新されているか」等、は詳しく質問されるケースが多いです。
    ここで明らかな欠陥が出ると、上場承認延期につながるリスクがあります。
    (対策:主要業務プロセスについてリスクと統制を洗い出し、不足があれば申請前に補強。監査役としてその整備状況を把握しておく。)
  • 内部通報制度の有無:ガバナンス上重要な内部通報制度が未整備だと強い指摘を受けます。
    「通報受付窓口は社内外にあるか」「通報があれば監査役にも報告される仕組みか」等を確認されます。
    (対策:内部通報規程を整備し社内周知。監査役会も定期的に通報状況の報告を受ける体制を作る。)
  • 監査役の独立性と資質:常勤監査役が元々社内の利害関係者ではないか(例えば元取締役で現在も大株主などだと問題)や、社外監査役の独立性が形式基準を満たしているかも審査されます。
    また監査役全員の経験・知見がバランスよく会社のリスクに対応できるか(法律、会計、業界知識など)という点も問われます。
    (対策:独立役員届出書など形式要件の確認を怠らない。必要に応じ不足分野の知見を持つ監査役を追加選任する。)
  • 監査役の兼務状況:常勤監査役が他社の非常勤役員を複数兼務している場合、申請会社の監査役業務に支障が生じていないかより詳細に質問されます。
    申請会社の監査役業務に充当する時間はどれくらいか、今後も兼務を増やす予定はあるのかなどの質問を通じて申請会社の監査役業務に専念するよう遠回しに指導されるケースもあります。
    (対策:他社の非常勤役員の兼務を増やしすぎない。兼務を開始する際に主幹事の公開引受部門に相談する。)

以上のように、上場審査における監査役周りのチェックポイントは多岐にわたります。
主幹事証券会社の指摘事項の傾向としても、今挙げたような項目(出席率・開催頻度・内部監査実績・指摘事項管理・内部統制の弱点・内部通報制度の整備など)が中心です。
常勤監査役はN期において、これら審査観点を常に意識しながら会社の不足部分を補強し、審査担当者に納得してもらえる説明資料やエビデンスを準備します。
幸い主幹事証券の審査段階で指摘を受ければ修正の猶予がありますので、真摯に対応し最終的に取引所審査までに改善を完了させることが肝要です。

上場申請書類への関与:
常勤監査役は上場申請時に提出する有価証券報告書(Ⅰの部・Ⅱの部/各種説明資料)や内部管理体制確認書などの作成にも間接的に関与します。
実際の作成は経営企画や経理部門が行いますが、内部管理体制の開示事項(例えばコーポレートガバナンス概要や監査役会の説明)について事前に目を通し、誤りや不適切な表現がないか確認します。
監査役会として「会社の内部統制は有効に機能している」といった結論部分にも責任を伴うため、提出書類と自らの認識の整合性をチェックします。
また、主幹事証券や取引所からの一問一答形式の質問にも、管理部門の草案回答を監査役の立場でレビューし、必要に応じ修正意見を出します。
例えば「内部監査人の人員が1名だが十分と考えるか?」という質問に対し、会社側回答が楽観的すぎる場合など、監査役の視点でリアリティのある表現に調整する、といった連携を図ります。
これにより、会社回答と監査役回答の不整合を防ぎ、審査担当者の信頼を高めることにつながります。

この記事の続編は2026/8/3に公開予定です。

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