監査役監査の基礎とIPO審査で見られるポイントとは その2
N期(申請期)の常勤監査役の役割と上場審査対応
上場審査本番に向けた監査役監査の徹底:
いよいよ上場申請を行うN期では、N-1期までに構築した監査体制をフル稼働させつつ、上場審査での確認に耐えるよう実績の総仕上げを行います。
まず、前年に策定した監査計画の完全実行が求められます。
計画に記載した監査手続は所定の時期までに漏れなく実施し、その結果や結論を監査調書として適切に文書化します。
上場審査では監査計画書や監査調書を閲覧され、計画された手続きが計画通り実施され文書化されているか確認されます。
従ってN期前半(上場申請前)までに、計画された監査手続は一通り実行済みであること、そしてその証跡(調書類)が整っていることが必要です。
常勤監査役は非常勤監査役にも協力を仰ぎ、監査調書の内容を点検して不備があれば補完します。
例えば、現金出納や在庫棚卸の立会結果、稟議書閲覧の記録、子会社監査の報告メモなど、細かな点も含め監査の足跡を文書で残すことを意識します。
上場準備段階では普段以上に「書類による説明責任」を果たすことが肝要です。
加えて、監査指摘事項の総括と是正状況の確認を行います。N-1期に洗い出した監査指摘事項について、N期の監査役会では最終的な改善状況のモニタリングを強化します。
各指摘事項について担当部署の改善措置が完了したか、未了の場合いつまでに対応予定か、常勤監査役が中心となりチェックします。
上場審査の観点では、指摘事項が皆無であることが必ずしも良いとはされません。
むしろ「指摘事項が極端に少なすぎると、監査手続の十分性に疑念を持たれる」可能性があります。
適切な指摘事項があり、それに対し経営陣が真摯に改善を行い、監査役がフォローアップしている状況が望ましいのです。
したがって、上場申請直前には監査役監査によっていくつかの改善提案がなされ、会社側で対応が進んでいることを示せると理想的です。
常勤監査役は監査役会報告や審査対応資料の中で、「○○の業務プロセスにつき▲▲の不備を指摘し、現在改善中である」等、監査役としての指摘・提言実績を適切にアピールできるよう整理しておきます。
主幹事証券・取引所による監査役審査対応:
N期には主幹事証券会社の引受審査および証券取引所の上場審査が本格化します。
常勤監査役を含む監査役一同も、この審査プロセスの中で直接ヒアリングを受けたり質問に答えたりする場面があります。
一般的な審査の流れとしては、まず会社から監査役監査の状況を示す資料一式(監査計画書、監査役会議事録、監査調書のサマリー、指摘事項一覧、監査報告書案など)を主幹事証券の審査部に提出します。
それをもとに主幹事の審査部が監査役向け質問状を会社宛てに発出し、常勤監査役は社内関係者と協力して回答書を作成、提出します。
質問内容は多岐にわたりますが、監査役監査の具体的な進め方や体制に関するものが中心です。
回答提出後、主幹事の審査部による監査役ヒアリング(面談)が実施されます。この面談には常勤監査役だけでなく非常勤も含め監査役全員の参加が求められ、同席のうえ質疑応答を行います。
証券取引所による上場審査の終盤にも監査役面談も行われます(流れ自体は主幹事審査と類似しており、提出資料・質問事項も主幹事段階のものが共有される形です)。
これら監査役面談において質問される主な項目として、以下のような内容が挙げられます:
- 監査役就任の経緯や背景:各監査役(常勤・非常勤)がどのような経緯で選任されたか。経営陣や主要株主との関係はないか。
- 監査役間の役割分担:常勤監査役と社外監査役のそれぞれの役割や分担は何か。専門分野(法務・会計等)に応じた担当決めをしているか等。
- 具体的な監査活動内容:監査で重視しているポイント(重点監査項目)は何か、日常どのような監査を行っているか。監査役が出席している会議体(取締役会以外に経営会議やリスク管理委員会等への出席有無)、業務現場への往査状況など。
- 監査役会の運営状況:開催頻度(月次開催か)、出席状況、議論内容は適切か。監査計画の策定や見直しは行われているか。
- 内部監査人・会計監査人との連携:内部監査部門や会計監査人との定期的な打合せ状況(三様監査の実施状況)。情報共有や相互補完は十分か。
- 経営者に対する評価:社長をはじめ経営陣の資質やコンプライアンス意識をどう評価しているか。日頃の経営陣とのコミュニケーション状況(監査役から進言しやすい雰囲気か)など。
- 取締役会の有効性評価:取締役会の構成(社外取締役の有無、スキルバランス)についてどう考えるか。取締役会で活発な議論が行われているか。
- 役員の指名・報酬プロセス評価:取締役や執行役員の指名(選解任)や報酬決定のプロセスについて意見があるか。ガバナンス上妥当と考えるか。
- 事業および業務執行体制の評価:会社のビジネスモデルにおける主要リスクは何か、それに対する管理状況をどう評価しているか。現状問題と感じている点はあるか。
- 内部管理体制(内部統制)への評価:社内規程や業務プロセスが適切に整備・運用されているか。例えば財務報告や法令遵守の統制に弱点はないか。
- 内部通報制度の整備状況:社内の内部通報制度(ホットライン)は設置され機能しているか。監査役はその運用状況を把握しているか。
- 会計監査人の監査体制評価:監査法人の対応に問題は感じていないか。会計監査人と十分意思疎通できているか、監査人の交代予定はないか等。
これらの質問は監査役の実際の活動内容から、監査役個人による会社ガバナンス評価にまで及びます。
常勤監査役は事前に非常勤監査役とも打ち合わせ、回答の方向性をすり合わせておくことが重要です。
全員の認識が食い違っていると審査側に不安を与えるため、例えば「内部統制に完璧でない部分もあるが、おおむね有効に機能している」といった評価のトーンを共有しておきます。
また、監査役面談に臨むにあたり、会社から取引所・主幹事への回答内容(内部管理体制に関する質問票への記載事項など)を常勤監査役も事前に全て把握・確認します。
監査役が把握している実態と会社提出回答に齟齬がないか、回答提出前にチェックする必要があるからです。
これは審査上非常に大事なポイントで、万一会社回答と監査役の証言が食い違えば信用失墜に繋がりかねません。
常勤監査役は管理部門と連携してこの整合性確認を徹底します。
監査役面談では、自社の弱点についての質問も避けられません。上場申請時点で内部管理体制が完璧でない部分があるのは現実的に仕方ないことですが、その際の回答ぶりに注意が必要です。
例えば「◯◯のルール整備が不十分です」「△△取締役に問題があります」など、単に欠点を指摘するだけでは審査に悪影響を及ぼす可能性があります。
重要なのは、発見した課題に対してどう改善策を講じているか、今後どうフォローするかを合わせて説明することです。
「確かに◯◯に不備がありますが、現在●●を講じて改善を図っています」「△△については今年度中に規程改定予定で、継続的にモニタリングします」等、前向きかつ建設的な姿勢を示すことが大切です。
常勤監査役は、会社の課題を認識しつつ上場企業として適切な体制に近づけていることを審査担当者に伝え、監査役として経営改善に貢献している姿勢をアピールします。
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