監査役監査の基礎とIPO審査で見られるポイントとは その1

プロジェクト・オーシャン株式会社

代表取締役 早川智也

はじめに

上場準備企業における常勤監査役は、取締役の職務執行を監査・監督し、企業のコーポレートガバナンスと内部管理体制の有効性を担保する役割があります。
東京証券取引所の上場審査では、企業のガバナンスや内部統制が規模や成熟度に応じて整備・適切に機能していることが求められ、特に監査役監査の実施状況は重要な確認項目となります。
上場に向けて主幹事証券会社(引受証券会社)は、書類作成指導や内部管理体制(内部統制)の整備指導などを通じて企業をサポートし、自社の審査部門によるチェックも行います。

これから常勤監査役に就任する方に向けて、N-1期(直前期)、N期(申請期)、上場後の3つの時期に分け、それぞれの常勤監査役の役割や求められる行動・体制について詳しく解説します。
各時期における主幹事証券会社からの具体的な指導内容や、監査役会運営・内部統制整備、会計監査人との連携、取引所対応上の注意点、そして上場審査でのチェックポイントや指摘事項の傾向、上場後の継続的な監査体制と報告義務についても触れていきます。

N-1期(直前期)の常勤監査役の役割と体制整備

監査役体制の構築とガバナンス整備:
上場直前期であるN-1期には、まず監査役体制を万全に整える必要があります。
N-1期には常勤監査役と非常勤監査役の2名からなる監査役会に準ずる組織として監査役協議会を設置する必要があります。
N期には、さらに1名の非常勤監査役を選任したうえで監査役会を設置します。
監査役会を設置するには会社法の規定上監査役は少なくとも3名が必要であり、上場審査上も常勤1名+非常勤2名の3名体制が最低ラインとされています(以下、N-1期は監査役協議会、N期は監査役会を設置しているとして説明しています)。
上場審査を見据えると、監査役会や取締役会の運用実績が1年以上あることが望ましいとされます。そのため、常勤監査役は遅くともN-1期の期首までに就任していることが理想です(可能ならN-2期から選任するのが望ましいとされています)。
また常勤監査役の“常勤”の実態も重要で、一般的に週3日以上は勤務し7~8時間程度は監査業務に充てることが必要とされます。
近年の上場審査では週4日出勤を求められるケースも増えており、審査段階で常勤監査役のコミットメントがチェックされます。
主幹事証券会社もこの点を確認し、不十分であれば増員や勤務頻度見直しの指導を行うでしょう。

内部統制の整備と内部監査の開始:
上場に耐えうる内部統制システムの構築はN-1期までに完了させ、運用を開始しておく必要があります。
主幹事証券会社は内部管理体制の整備指導を行い、組織的な企業運営(個人頼みではない仕組みづくり)を助言します。
例えば、定款・社内規程類の整備、職務分掌の明確化、販売・購買・財務管理等の業務プロセスの管理体制構築など、上場企業に相応しい内部統制が整っているかがチェックされます。これは将来の内部統制報告制度(J-SOX)対応も見据えたものです。
常勤監査役はこの内部統制構築に深く関与し、経営管理や法務部門と協力してリスク管理・コンプライアンス体制内部通報制度(ホットライン)の導入にも目を配ります。
主幹事証券からは重要な統制項目(承認権限の整備、IT統制、法令遵守体制など)の整備状況について助言や指摘を受けることが考えられます。

なお、上場準備初期(N-2期頃)には「ショートレビュー」と呼ばれる簡易監査・診断を監査法人が実施し、課題抽出と改善提言を行うのが一般的です。
このショートレビューでは内部統制体制、会計監査対応、開示書類の整備状況などがチェックされ、その結果を受けて改善計画が策定されます。
常勤監査役はショートレビューで指摘された課題(たとえば稟議フローの不備や在庫管理の弱点等)の解決に向けた社内施策を監督します。
このようにN-1期までに「ルールは整備し運用も開始、課題は洗い出して潰し込んでいる」状態を作ることが、上場審査に向けた土台となります。

監査役会の運営と監査計画の策定:
N-1期では常勤監査役と非常勤監査役の少なくとも2名で構成される「監査役協議会」を設置し、定期運営を開始します。
監査役協議会は通常毎月1回の開催を基本とし、必要に応じて臨時会も行います。
月次の監査役協議会では、策定した監査計画に沿った監査実施状況の報告・確認や、必要事項の決議(例えば重要な指摘事項への対応方針の承認等)を行います。
常勤監査役は議長またはそれに準じる立場で監査役協議会を主導し、非常勤監査役にも適切に情報共有します。
上場審査では監査役協議会議事録の提出が求められ、開催頻度や会議での報告・決議内容が確認されます。
したがってN-1期において月次監査役会を滞りなく開催し、会議録に監査報告や協議内容を記録しておくことが重要です。

同時に、監査役監査の基本方針および年間監査計画を策定します。監査計画には「いつ、誰が、どのような監査手続を行うか」を明記し、一般に以下の項目を含めます:

  • 監査の基本方針(監査役監査の目的・姿勢)
  • 監査手続(チェックすべき業務領域や手法)
  • 重点監査項目(特にリスクの高い分野や前期の指摘事項)
  • 各監査役の分担(常勤・社外それぞれの役割)
  • 年間スケジュール(月次・四半期ごとの監査項目と実施時期)

監査計画は常勤監査役が中心となり監査役全員で立案しますが、必要に応じて主幹事証券会社の公開引受部門やIPOコンサルティング会社から助言を受けることも可能です。
主幹事証券は多数のIPO案件を審査してきたノウハウがありますので、その助言を活用して上場審査の視点を計画に織り込むとよいでしょう。
例えば、「在庫計算の監査手続きは四半期ごとに実施すべき」「前期に発生した不備事項Xに対するフォローアップを重点項目に入れるべき」等のアドバイスがあり得ます。
監査計画策定後は監査役協議会で正式承認し、N-1期を通じて計画に沿った監査の遂行を進めます。

常勤監査役の監査活動と内部統制評価:
常勤監査役自身は、日常業務の中で随時会社の状況をモニタリングします。具体的には取締役会その他の重要会議への出席、業務現場の往査(現場監査)、帳簿や稟議書の閲覧などを計画に従って実施します。
取締役会には常勤・非常勤問わず全監査役が出席し、必要に応じて意見を述べることが求められます。
上場審査では取締役会議事録から監査役の出席状況がチェックされ、やむを得ない場合を除き”出席率100%”が期待されます。
したがってN-1期の取締役会から、常勤監査役はもちろん非常勤監査役にも日程を共有し全て出席するよう調整します。

常勤監査役はまた、内部統制の整備・運用状況の評価にも携わります。
経営陣が策定した内部統制基本方針や各種規程類が現場で順守・運用されているか、日々の監査活動を通じて点検します。
不備や改善点を見つけた場合は監査役協議会で議題とし、改善を提言します。
監査手続の過程で検出された事項は「監査指摘事項一覧」等の形で文書化し、関係部署・責任者へフィードバックします。
一覧には指摘内容、担当部署の改善案と予定時期、対応状況(完了/未了等)を記載し、常勤監査役が中心となってフォローアップします。
このPDCAサイクルにより、N-1期の終わりまでに重大な指摘事項については是正が進み、未解決の課題も改善計画が明確になっている状態を目指します。

主幹事証券会社はN-1期の終盤にかけて、この内部統制の整備・評価状況についてヒアリングを行い、上場申請時点での懸念事項を洗い出します。
典型的な指導内容としては、「内部監査の記録をもっと詳細に残すように」「在庫管理ルールの運用実績を示す資料を作成してほしい」など、審査で指摘されそうな箇所の事前改善依頼が挙げられます。
常勤監査役は経営管理部門と協働し、主幹事からの指摘事項に迅速に対応します。

会計監査人との連携と四半期レビュー:
上場準備会社では、上場直前期までに会計監査人(監査法人)を選任し、金融商品取引法に則った財務諸表監査を受ける必要があります。
通常、上場申請には直前期と直前前期の2期間分の監査済財務諸表が必要となるため、N-1期・N-2期分について監査を受けます。
常勤監査役は会計監査人との窓口役として、監査計画の説明を受け質疑応答する、監査スケジュールの調整、監査人への情報提供などで協力します。
また、監査人から四半期ごとに発行される四半期レビュー報告や指摘事項のコミュニケーションを入手し、その内容(例えば会計上の見積もりに関する監査人の懸念点など)を把握します。
会計監査人から「要改善事項」や「気付き事項」が出れば、常勤監査役は管理担当役員や該当部門長に働きかけて早期に対応させるとともに、その改善状況を監査役協議会で報告・監視します。

さらに、監査役・内部監査人・会計監査人の三者連携(いわゆる“三様監査”)を構築することもN-1期の重要な課題です。
【監査役+内部監査+会計監査人】の三者はそれぞれ立場は異なりますが、監査機能の効率化と品質向上のため定期的な情報交換が求められます。
上場審査では、この三様監査の連携状況についても確認があります。一般には四半期に一度、三者による意見交換会(打合せ)を開催し議事録を作成しておくことが望ましいです。
審査ではその議事録提出を求められ、開催頻度や内容がチェックされます。常勤監査役の視点では、形式的な定例会だけでなく日頃から内部監査人と密にコミュニケーションを取り、内部監査の検出事項や改善状況を共有すること、また会計監査人とも随時打ち合わせて監査上のリスク認識をすり合わせておくことが重要です。
主幹事証券会社からも「監査法人、内部監査との情報共有体制はできていますか?」と問われることがありますので、N-1期の段階で三様監査が機能していると言える状態にしておきます。

以上が直前期に常勤監査役が構築・実施すべき監査の基本となります。
要約すれば、「必要な監査役体制を整え、内部統制を構築・運用開始し、計画に基づく監査活動と改善フォローを行い、監査法人や内部監査とも協働してガバナンスの有効性を高めておく」ことがN-1期のミッションです。
この段階での常勤監査役の働きかけにより、上場審査で問われるポイントの多くは土台作りが完了しているはずです。

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