【三桜工業 三輪常勤監査役インタビュー】
インハウスロイヤーから常勤監査役へ。
客観的視点と現場へのリスペクトで支えるガバナンス向上
三桜工業株式会社
常勤監査役 三輪 はるか
保育士資格を持ちながら司法試験に合格の後、出産、法律事務所勤務を経て三桜工業のインハウスロイヤーになられた三輪さん。
2021年に同社で打診を受け、常勤監査役として活躍されています。
現場への深いリスペクトを持ち社内改革を支えるその姿と、仕事と育児を両立させる心地よいキャリアの実現に迫りました。
最終更新日 2026.3.31
※役職はインタビュー実施日現在のものです。
育児とキャリアの葛藤を経て、インハウスロイヤーという選択へ
まずはこれまでのご経歴からお伺いします。弁護士としてキャリアをスタートされたのが2017年ですね。
はい。2017年の4月に一般民事系の法律事務所に入所しました。
ただ、その直前の1月に出産をしており、生後3か月の長子を保育園に預けながらのスタートだったんです。
私自身、保育にも関心があって保育士資格も持っていましたし、司法試験の勉強中に保育園やベビーシッターのアルバイトもしていたので、預けて働くこと自体に抵抗はありませんでした。
ですが、小規模な法律事務所での勤務は、想像以上に時間のやりくりが困難でした。
勤務時間も長く、土曜日もクライアント対応のために出勤する。
事務所に所属しているとはいえあくまで個人事業主である弁護士には有給休暇もないので、0歳児を育てながら働き続けるには限界があると感じ、一度退所する決意をしました。
その後、現在の三桜工業に転職されたのですか。
いいえ、法律事務所を辞めてすぐに転職したわけではなく、少しの間、保育士として働いていました。
保育の仕事自体はとても楽しかったのですが、やはり自分が心血を注いで取得した弁護士資格を最大限に活かして社会に貢献したいという思いが再燃し、そこで出会ったのが今の会社でした。
入社時は常勤監査役ではなく、法務部のインハウスロイヤーとしての採用でした。
ですから、弁護士資格があるというだけで、業務内容は他の法務部員と同じです。
経験豊かな先輩方に教えていただきながら、契約書のチェックやコンプライアンス研修の資料作りなどに従事しました。
青天の霹靂だった常勤監査役への打診
その後、2021年に常勤監査役に就任されていますね。きっかけは何だったのでしょうか。
ある日突然、社長室に呼ばれまして、「監査役をやってみませんか」と。まさに「青天の霹靂」でした。
当時は法務部員として社内のガバナンス向上プロジェクトに参加していましたので、社長も私のことは認識してくださっていたようですが、まさか自分に声がかかるとは夢にも思っていませんでした。
打診を受けて、迷いはありませんでしたか。
正直に言えば、監査役が具体的に何をする役割なのか、当時は完全には理解できていませんでした。
ですが、自分のキャリアの中で大きなチャンスだと感じました。
また、取締役会の議事録作成なども担当していたので、取締役会での議論を傍聴する中で、監査役の立ち居振る舞いや発言は見ていたのもありイメージは持てていました。
傍聴する取締役会の議論を通じて、弊社社長が業績だけでなくガバナンスを重視している姿勢も知っていました。
ですから、この社長の下での監査役なら苦労はあっても前向きに取り組めそうだと思い、お引き受けすることにしました。
社内とはいえ役割が変わるということで、就任にあたって何か準備をされましたか。
まずは市販の「監査役になったら読む本」のようなものを数冊読み込みました。
就任後は、日本監査役協会の研修に毎月参加し、役割や実務の進め方を基礎から学びました。
日本監査役協会の各種「部会」にも参加しています。他社の監査役と勉強会と交流が図れる会です。それとは別に、有志の「弁護士・常勤監査役の会」というコミュニティにも参加させていただいています。
こちらは勉強というより、他社の常勤監査役で弁護士である先輩の方々と、同じ立場の人同士で交流したり現場の悩みを相談できる場という感じです。
他社の監査役の方々と知り合えて深い繋がりができるというのは意外でしたし、こういったコミュニティがあることは心強いです。
社内出身の監査役となると、直前の上司・同僚との関係性で難しさはありませんでしたか。
私自身は、そうした難しさはほとんど感じませんでした 。
入社後比較的早い段階で就任したこともありますが、一番の理由は、就任前からガバナンス向上のプロジェクトに参画していたことです。
チームで、提言を経営方針案に盛り込み取締役会で発表するなどの活動を通じて、ガバナンスの基礎的な知識や考え方が身に付き、その延長線上でスムーズに職務をスタートできたかなと思います 。執行から監査という立場の違いはありますが、同じ会社の一員であることに変わりありませんから、「監査役という役割」に切り替わるだけと割り切って、変に遠慮しすぎないよう心がけていたことも大きいかもしれません。
役員だからと構えず、周囲から学び続けるという謙虚な気持ちのまま社員時代と変わらない振る舞いでいることができました。
「客観性」と「リスペクト」で歩む、製造現場の安全意識強化
実際に監査役として活動される中で、特に注力されていることは何でしょうか。
私が就任した頃、さらなる改善が必要と感じたのが「労働安全」でした。
製造業として、製品の品質管理は徹底されていたのですが、労働災害の防止に関しては、これまでの取り組みを一歩進めて、より未然防止に特化した仕組みへと進化させる余地がありました。
そこで、安全衛生委員会の議論をウォッチし、「会社としてもっとリソースを割き、仕組みで防ぐべきだ」と働きかけました。
正に客観的な視点をお持ちだったからこその改革ですね。
いえ、私はあくまできっかけを投じただけで、実際のところは現場がリスクオーナーシップ(自分たちがリスクを管理するのだという意識)を持って、対策書を作り、進めてくださいました。
そうして安全対策が組織的に強化されるようになったのに加え、社長、私、総務本部長、生産本部長の4名を中心に、国内の全工場を隔月で巡回する安全意識強化ワークショップという取り組みが始まったんです。
事前にリスクアセスメントを行い、現場の担当者から「ここは危ない」「ここはこういう対策を打った」という説明を直接聞きながら歩く。
数年かけて社内の意識と体制が少しずつ変わってきたことがとても嬉しいです。
監査役は客観的な立場とは言え、現場や執行側との連携が不可欠ですね。
そうですね。だからこそ「言うのは簡単だが実行するのは難しい」という実務の苦労に対して、リスペクトを忘れないようにしています。
監査役の「やるべき」を100%そのまま現場に押し付けても、組織は疲弊してしまいますよね。
会社の現状や割けるリソースを鑑みて、改善ポイントに濃淡をつけて伝える。
言いっぱなしにするのではなく、経営者的な目線も持ちながらバランスを取ることを大事にしています。
リスクの早期発見につながる、弁護士の「聴く力」
監査役は会計士の方が多い印象ですが、最近は弁護士の方も増えています。弁護士が監査役を務める意義や、強みについてどのようにお考えですか。
会計という点では数字の正確性だけでなく、正確な数字が報告されるための「仕組みが整備できているか」に注目しています。
その際には意思決定プロセスやガバナンスの弱点に目を向けることを重視しています。弁護士資格を活かし、リスクを構造的に整理できる点が監査役としての強みです。
またコンプライアンス、不祥事防止の場面に強いのが弁護士の強みかと思います。
そして、会計監査人(監査法人)による会計監査の相当性をチェックする立場でもありますから、監査法人と会計上の論点を協議するために必要となる、会計の基礎知識は、日本監査役協会の講座や「会計監査実務部会」の勉強会に参加して、知識を補うようにしています。さらに、人とコミュニケーションをとる場面も多いので、「人の話に落ち着いて耳を傾ける力」も必要だと思います。冷静かつ客観的かつ共感力をもって人の話を聞くことは弁護士の基本であり、監査実務にも通じる部分だと思います。
といっても、資格やスキルというよりは、「心を込めて相手の話を聴く」姿勢を忘れないということに尽きるのかもしれません。
子育てと常勤監査役の両立。自由度の高さがもたらす心の安定
働き方の面でも伺いたいのですが、子育てをしながら監査役として働くことについてはどう感じていらっしゃいますか。
子育てと常勤監査役という働き方の相性は、とても良いと思っています。
今は在宅勤務も可能ですし、時間もフレキシブルに調整できるので、子どもと一緒にいる時間を大切にできています。
また、監査役は、客観性や中立性が求められる立場上、社内の密な人間関係からは一歩引いた位置にいます。
これが私にとっては、人間関係のストレスが少なく、精神的に安定して働ける理由になっています。
心身ともに理想的な働き方を実現できていますね。
はい。もちろん、案件対応などで夜にパソコンを開くこともありますし、早朝に海外拠点との会議が入ることもあります。
ですが、監査役の仕事はリモートワークとの相性も良く、会議も自宅から参加できるので、非常に助かっています。
子どもたちの成長はあっという間なので、その時々の可愛さを目に焼き付けながら、一方で「会社を健全に成長させる」という重責を担う。
どちらも大事なことなので、良いバランスをとって続けていきたいと思っています。
正解のない問いに挑み、自社に合わせた「オリジナリティ」を形にする面白さ
今後、挑戦してみたいことはありますか。
現在の任期がまだ残っているので、まずは今の役割を全うしたいです。
監査役は会社の変革にも立ち会える非常に有意義な仕事ですし、執行側と良い緊張関係を保ちつつも同じ方向を向いて、会社を共に健全に成長させる仲間として進んでいる実感が持てる、素晴らしい職務だと感じています。
将来的に社外監査役にも興味はありますので、監査役として今の道を究めていきたいです。
最後に、今後常勤監査役を目指す方へのメッセージをお願いします。
監査役は自由度が高い反面、責任も非常に重い仕事です。
善管注意義務を問われる可能性など、真面目に考えれば考えるほど引き受けるのをためらうかもしれません。
しかし、日本監査役協会などの研修体制は非常に充実しており、そこでしっかりと知識を仕入れる責任感さえあれば、過度に心配する必要はないと思っています。
むしろ、学んだ知識を自社の現状に照らし合わせ、「今足りないものは何か」と考え実践するような試行錯誤を楽しめる方には、お薦めしたい職務です。
会社の状況やフェーズに合わせて自分なりのオリジナリティを発揮していければ、きっと大きなやりがいを得られると思いますよ。
取材・文: 大場 安希子
写真: 田中 有子