【estie 服部常勤監査役インタビュー】
“私らしい働き方”と“ゼロ→イチの挑戦”が出会う場所
株式会社estie
常勤監査役 服部 景子
初めての常勤監査役就任から10年目を迎える服部さん。
海外での生活を通して変化した働き方に対するお考えや、ベンチャー企業でゼロから内部統制を構築の指導を行い、会社を育てていくことの面白さについて、お話しくださいました。
最終更新日 2025.7.15
※役職はインタビュー実施日現在のものです。
金融の世界から公認会計士へ – 専門家を目指して始まったキャリア
キャリアのスタートは銀行だそうですね。
はい。初めは日本の銀行に総合職として入行しました。
大学時代から、漠然と何かの専門家になりたいと考えていて、父親が銀行員だったこともあり、金融の専門家を目指しました。
銀行に入ると様々な勉強をしたり試験を受けたりする機会があるのですが、そこで初めて簿記に出会い、面白いなと思ったのです。
財務諸表を見て分析することが純粋に楽しく、金融機関で働いている間に米国公認会計士の資格を取りました。
日本の公認会計士より先に米国公認会計士の資格を取られたのですね。
その時点で社会人5年目くらいでした。
その後、すでに公認会計士だった夫の勧めもあり、国内の公認会計士の資格を取るべく会社を辞めて勉強に専念しました。
日本の公認会計士の資格を取得した後は、実務経験を積んで会計士登録をするために監査法人に入りました。
上場企業から非上場の中小企業まで、様々な会社の会計監査を担当しました。
その後独立されて、ご自身の会計士事務所を設立されていますね。
5年ほど監査法人で働き、主査という監査の責任者を任されるようになった頃に、ちょうど夫のニューヨーク赴任の話が出たのです。
当時、監査法人の国際部にいたので、そのネットワークの現地監査法人で働くという選択肢もあったのですが、「せっかくの機会だから、自分のやりたいことや子育てに集中してみたらどうか」と夫と話し合い、会社を辞めて公認会計士として独立し、一緒に行くことに決めました。
すでに第1子がおり、3〜4歳の頃でした。
2人目の子どもが欲しいとも考えていましたが、仕事に没頭していると産まないまま何年も経ってしまうかもしれないと感じていたのです。
そんなこともあり、敢えて立ち止まる選択をしました。
自分らしい働き方への気づき
ニューヨークでは、どんな風に過ごされていたのでしょうか。
子育てをしながら、大学院の外部講座を受講して英語や会計のスキルをブラッシュアップしつつ、日本の取引先から現地での業務を紹介していただきリモートで仕事をしていました。
子どもの学校にも積極的に関わって、折り紙教室を開いたり、地域のボランティア活動にも参加したりしました。
自分のペースで自由に過ごすことができて、本当に充実した時間でしたね。
私自身が小さい頃をアメリカで過ごしたので、子育てを通して自分の幼少期を思い出すような感覚もありました。環境に恵まれていたこともあり、改めて自分のルーツを感じながら過ごせた気がします。
海外で暮らすと、日本では得られない気づきもありそうですね。
本当にたくさんありました。
アメリカでは子どもを一人で街を歩かせることができないので送り迎えが必須ですが、例えば、夕方の小学校へのお迎えに父親が来るのはごく普通のことなのです。
日本では夕方は父親がまだ働いている時間なので母親が迎えに来るのが一般的ですが、向こうでは在宅勤務や起業している人も多くて、とても自由でした。
働き方に対する考え方にも、変化はありましたか。
そうですね。それまでの私は、きちんとレールに乗って働かなければという考え方にとらわれていました。
ですが、ニューヨークで出会った人たちはもっと自由で、自分に合った働き方をしていて、私にとってはカルチャーショックでしたし、その後の働き方に大きな影響を与えました。
赴任していた2年の間に2人目の子どもも生まれましたし、人生の中でも本当に大切な時間になりました。
あのタイミングで少し立ち止まって、自分と家族の時間を優先したことは、今振り返っても良い決断だったと感じています。
驚きとともに学びを得た、初めての監査役の日々
初めて監査役に就任されたのは帰国後ということになるのでしょうか。
そうです。ただ、監査役をやりたいと明確に思っていたわけではありませんでした。
帰国後、私は個人で会計士業務を請け負っていたのですが、そうやっていろいろとお手伝いをしている中で「常勤監査役を探している会社があるけど、どうか」と声をかけていただいたのがきっかけです。
何社かご紹介いただいた中で、当時創業5年くらいだった不動産ベンチャー企業の常勤監査役に就任しました。
小規模なベンチャー企業で働くことについて、周囲や親など心配する人もいましたが、私自身はニューヨークでの経験もあり、あまり抵抗がありませんでした。
実際に常勤監査役になられて、想像通りだった点や意外だった点はありましたか。
想像と全然違いましたね。
これまで私は会計や財務の視点から、しかも外部からしか会社を見ていなかったのですが、実際には会社全体のごく一部だったと分かりました。
実際の業務では、事業内容、組織、人材育成、内部統制など、関わる領域がものすごく広かったです。
また、若い会社ということもあり、ルールも資料の整備もまだ不十分な状態でした。
毎日がパンドラの箱を開けるような感覚で、これは一体何の書類? というものばかり。
これまで私がいた世界がいかに整備されていたかを思い知りました。
不動産ベンチャー企業は服部さんの就任から3年後に上場していますが、そのご経験はどのようなものでしたか。
就任時は管理部門の担当者も少なかったので、私は監査役に就任しつつ、実質的には会計士として内部統制の構築の指導をしていました。
まず月次決算をしっかり締めるところから始めて、取締役会設置会社への移行に向けて必要な体制を整えていきました。ただ、その現場に寄り添うスタンスは上場までで、上場後は株主やステークホルダーに向き合う立場へとシフトしました。それに伴い、求められる姿勢も「社内を厳しく指摘する側」へ変化しました。
同じ会社で、上場前と後、両方のフェーズを経験されたからこそのご経験ですね。
はい。同じ会社にいながらも、上場前後で向き合う相手がまったく違うのです。
監査役会の経験豊富な社外監査役の方から「迷った時は、株主や債権者だったらどう思うかで考えればいい」と言われたことが、とても腑に落ちました。
「この経営者たちの目標実現のために、企業成長に貢献したい」ゼロ→イチへの再挑戦
estieの常勤監査役に就任されたのは2023年ですね。再び上場前の企業を選ばれたのはなぜですか。
アーリーステージの会社に関わってチームの皆で一緒に何かを作り上げていく、言わばゼロからイチをつくるプロセスにもう一度関わりたかったからです。
前職で経験したPDCAをもう一度回したら、自分なりにもっと良くできるのではないかという期待もありましたし、前職の不動産ベンチャー企業で出会った若い社長が10年かけて事業を育て、上場まで実現した姿を見てきたので、また同様の過程で自分の経験を活かすことが一番の貢献になるだろうと考えました。
estieの若い経営者たちが「産業の真価を、さらに拓く。」というパーパス実現に向け、目を輝かせて事業構想を語る姿を見て、ぜひこの方たちの目標実現のため、ガバナンスの観点から企業成長に貢献したいと思ったのです。
「この方たちの目標実現のために企業成長に貢献したい」という思いが重要なのですね。
そうですね。ボードメンバーの一員として、同じ責任を持って経営に携わる以上、経営者たちの成長を応援したいと思うか、またその人たちが信頼関係を築ける人たちであるかは最も大切なポイントです。
経営には危機もあるので、そんな時に一緒に乗り越えられるかどうか。それを面談の中で確かめるようにしています。
監査役としての醍醐味や面白さは、どんなところに感じますか。
日々の監査や会話の中で「ここは管理体制が整っていないな」と気づくことがよくあります。
それに対して地道に仕組みづくりをしていくことは大変ですが、やりがいがあります。
丁寧なコミュニケーションで伝え、ルールを作り、社内で運用を始め、それが定着して「当たり前」になるまで、だいたい3年はかかります。
道のりは長いですが、導入時は現場に抵抗があって反発をやや感じたようなことが、数年後には自然と皆さんが実践されている姿を見ると、「あの時やってよかったな」と感じます。まるで子育てみたいです。
会社を育てていくような面白さがあるのですね。日々の業務で大事にしていることはありますか。
日々の業務で大事にしていることの一つに、「重要性と緊急性の見極め」があります。
目の前で起きていることに対して、緊急性や細かい論点にとらわれてしまうことってよくあると思うのですが、「本質を見据えた時に本当に重要なことか」という視点を常に持つようにしています。
ベンチャー企業の本質は事業を成長させていくことにあるのに、緊急性にとらわれたり細かすぎる指摘をしたりすると、それが足かせになって事業成長を邪魔してしまうこともあります。
もちろん、リスクを見逃してはいけませんが、リスクだから全部止めてと言っていたら、会社は前に進まなくなってしまいます。
そのバランスをどうとるかが監査役の腕の見せどころだと思っています。
子育ても筋トレも全力で。私らしい両立のカタチ
先ほど子育てのお話もありましたが、プライベートとの両立という面ではいかがですか。
今、子どもは高校生と中学生です。
会社の理解もあって、平日の学校の保護者会などにも出席できますし、仕事と子育ての両立はしやすい仕事だと思います。
10年前に初めて監査役になった頃に比べると、子育てもだいぶ楽になり、今は仕事と自分のプライベートのそれぞれにしっかり時間を使えるようになりました。
服部さんは「#筋トレ会計士女子」としてもご活躍で、大会で優勝されているとか。
はい。週4日くらいは筋トレに励んでボディーメイクに時間を割いています。
筋トレも奥が深いので、筋繊維の仕組みや栄養学などについて本を読んだりして、勉強の一つになっています。
仕事との相性も非常に良く、経営者やマネジメント層の方たちにも筋トレ愛好家は多いようです。
365日、常に色々なことを考えている状態でも、筋トレ中は目の前の負荷に集中するしかないので、頭がすっきりして、その後の仕事がはかどるのです。言わば脳のメンテナンスですね。
あなたの勇気が未来を拓く。最初の一歩の踏み出し方
今後やってみたいことや、お仕事の展望についてお聞かせいただけますか。
まずは今関わっているestieで、しっかりと力を発揮して責任を果たしたいと考えています。
上場することはもちろんですが、それ以上に、社員の皆さんが日々幸せに、前向きに働ける環境を整えていくことに力を注ぎたいと思っています。
プライベートでは筋トレもしっかり続けていきたいですし、もっと自由に住む場所を選べるような生き方も考え始めています。
人生はあっという間に過ぎるので、「やれる時にやっておこう」という気持ちが強いです。
今後常勤監査役を目指す方に、アドバイスやメッセージをお願いします。
最初の一歩がなかなか踏み出せない方が多いのですが、監査役は実際にやってみないとわからないことが本当に多いのです。
監査役としての仕事のやり方については世の中に情報が溢れていますし、やりながら覚えていけばいいので、まずは勇気を持って飛び込んでみてほしいなと思います。
たしかに、監査役の責任の重さを考えると躊躇するのも分かります。
そうですね。最近は経営者の方などから、監査役を紹介してほしいという相談をいただくことが多いのですが、監査役をやってみたいと積極的に手を挙げる方はまだ少ない印象です。
会社法の責任の重さやリスクを心配される方も多いですし、子育てとの両立が難しいからと躊躇される方もいらっしゃると思います。
以前、ある方にお声がけしたところ、「興味はあるけど、自信がない」とおっしゃいました。
でも、やらないと自信はつかないことも分かっていましたし、その方は人としても信頼できる方だったので、「絶対にできる」と思い、時間をかけて相談に乗り、背中を押したのです。
結果的にその方は監査役に就任し、その会社は上場しました。
就任を迷ったときは、信頼できる人やその道のプロに相談してみるのも、良い手段です。また、「どの会社に就任すべきか」で迷った場合は、直感を信じるしかないと思います。
任期と責任を全うするには「この経営陣を信頼できるか」「この事業を応援したいか」というエモーショナルな部分も大事な要素だからです。
そうして勇気を持てたなら、ぜひ監査役の世界に飛び込んでみてください。
取材・文: 大場 安希子
写真: 田中 有子